食事を明るく食べたくて
どれぐらい、そうしていたでしょうか。
ふっと顔をそむけたヨミが、廊下の向こうへと歩き出したのに気付いて、私は慌てて足を踏み出しました。
それを止めたのは、ナギ。
びっくりして振り返ると、細い指が、しっかりと私の腕を掴んでいました。
「…ナギ?」
「放っておいて大丈夫ですよ、フク」
「でも」
「ヨミだって、神の一員です。ちゃんとわかっています」
そう、しっかりと目を合わせて言って来るナギの顔が、妙に真剣なのは気のせいでしょうか…。
その真っ直ぐなまなざしに危うく頷きかけて、私はぶんぶんと頭を振りました。
「わかってても、あんな顔されたら放っておけんわ! ちいと行って来る!」
半ば振り切るようにナギの指をほどき、廊下を駆け出します。
その後ろで、ナギが溜息をつく音が、なぜか聞こえたような気がいたしました。
だけど、そんな事は後回し!
どんよりしてたら、ご飯がおいしくなりません!
慣れた廊下を駆けて行けば、ヨミに追いつくのはすぐの事。
むしろ、ヨミが廊下に座り込んでいたせいで、あやうく蹴っ飛ばしそうになったんですけどね。すぐには止まれませんから。
「ヨミ…」
「何しに来た」
「いや、何って言われると困るんやけどな」
すとん、とヨミの隣に座って肩を丸めます。
ちら、と目を向けると、さっと顔をそむけられました。露骨です。
「ええと…」
考えるより先に、むんずとヨミの襟首を掴む私。
そのまま、ていっと膝の上にその頭が来るように転がすと、ヨミが声を裏返しました。
「何をする…!」
「いや、飯の前ぐらい機嫌直してもらおうと思うてな」
「ひ、人の食事は必要ない!」
「必要なくても、食べられるやろ。むすくれて食べるとか、飯に失礼や!」
…沈黙。
「貴様は」
「うん?」
「飯を美味しく食べたいが為に、わざわざこんな真似をするのか」
「もっちろん!」
だって男心なんてわかりませんもの、年の数=彼氏いない暦ですもの。
くるんと回した尻尾をもふっとヨミに与えておいて、大きく大きく息を吐きます。
さりげなく尻尾にもそりと埋まるヨミ。
そんな、拗ねた猫のように見えるヨミの頭をわしわしと撫でていると、不意にシキの声が響いてまいりました。
「フク様ー!」
「うん?」
手を止めて、声の方を振り仰ぎます。
「芋、芋が…!」
声の調子からして、ただごとでは御座いません。
急いで立ち上がると、ごつんと音がしました。ヨミが落ちた音です。
……ちょっと反省。
「…行くのか」
ぶつけた辺りをさりげなくさすりながら、ヨミが起き上がります。
こくりとうなずくと、驚いた事にヨミが笑ってました。あの、無表情が笑っていたのです。
「ならば、同行してやろう」
「……」
「何を固まっている?」
「いや、別に…」
一瞬、見惚れたとか言いませんよ。あんまりにも爽やかで違和感ありまくりだったとか言いません!
かくして、私とヨミが声の元に駆けつけると、確かに、鍋の中で芋が変貌を遂げておりました。
「…煮こごり?」
簡単に言うなら、そんな感じになっておりました。
灰汁の入った鍋の中で。芋が。