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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
28/35

食事を明るく食べたくて

 どれぐらい、そうしていたでしょうか。

 ふっと顔をそむけたヨミが、廊下の向こうへと歩き出したのに気付いて、私は慌てて足を踏み出しました。


 それを止めたのは、ナギ。

 びっくりして振り返ると、細い指が、しっかりと私の腕を掴んでいました。


「…ナギ?」

「放っておいて大丈夫ですよ、フク」

「でも」

「ヨミだって、神の一員です。ちゃんとわかっています」


 そう、しっかりと目を合わせて言って来るナギの顔が、妙に真剣なのは気のせいでしょうか…。

 その真っ直ぐなまなざしに危うく頷きかけて、私はぶんぶんと頭を振りました。


「わかってても、あんな顔されたら放っておけんわ! ちいと行って来る!」


 半ば振り切るようにナギの指をほどき、廊下を駆け出します。

 その後ろで、ナギが溜息をつく音が、なぜか聞こえたような気がいたしました。


 だけど、そんな事は後回し!

 どんよりしてたら、ご飯がおいしくなりません!


 慣れた廊下を駆けて行けば、ヨミに追いつくのはすぐの事。

 むしろ、ヨミが廊下に座り込んでいたせいで、あやうく蹴っ飛ばしそうになったんですけどね。すぐには止まれませんから。


「ヨミ…」

「何しに来た」

「いや、何って言われると困るんやけどな」


 すとん、とヨミの隣に座って肩を丸めます。

 ちら、と目を向けると、さっと顔をそむけられました。露骨です。


「ええと…」


 考えるより先に、むんずとヨミの襟首を掴む私。

 そのまま、ていっと膝の上にその頭が来るように転がすと、ヨミが声を裏返しました。


「何をする…!」

「いや、飯の前ぐらい機嫌直してもらおうと思うてな」

「ひ、人の食事は必要ない!」

「必要なくても、食べられるやろ。むすくれて食べるとか、飯に失礼や!」


 …沈黙。


「貴様は」

「うん?」

「飯を美味しく食べたいが為に、わざわざこんな真似をするのか」

「もっちろん!」


 だって男心なんてわかりませんもの、年の数=彼氏いない暦ですもの。

 くるんと回した尻尾をもふっとヨミに与えておいて、大きく大きく息を吐きます。

 さりげなく尻尾にもそりと埋まるヨミ。

 そんな、拗ねた猫のように見えるヨミの頭をわしわしと撫でていると、不意にシキの声が響いてまいりました。


「フク様ー!」

「うん?」


 手を止めて、声の方を振り仰ぎます。


「芋、芋が…!」


 声の調子からして、ただごとでは御座いません。

 急いで立ち上がると、ごつんと音がしました。ヨミが落ちた音です。

 ……ちょっと反省。


「…行くのか」


 ぶつけた辺りをさりげなくさすりながら、ヨミが起き上がります。

 こくりとうなずくと、驚いた事にヨミが笑ってました。あの、無表情が笑っていたのです。


「ならば、同行してやろう」

「……」

「何を固まっている?」

「いや、別に…」


 一瞬、見惚れたとか言いませんよ。あんまりにも爽やかで違和感ありまくりだったとか言いません!


 かくして、私とヨミが声の元に駆けつけると、確かに、鍋の中で芋が変貌を遂げておりました。


「…煮こごり?」


 簡単に言うなら、そんな感じになっておりました。

 灰汁の入った鍋の中で。芋が。

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