最終形態はたまねぎもどき
本堂、にて。
「芋が、タマネギになったわねえ…」
「種類は変わっていませんよ? キョウ」
にこにこと、笑顔で何やら綴っているナギの前。
そこに、どどどん、と三つほど並んだタマネギもどきを、キョウが嬉しそうに指でつついておりました。
ナギの力を使って育てたと思われるタマネギ…というか泥球根。
そこからニョッキリ生えた葉っぱには、とてもとても、見覚えがございました。
「コンニャクやね」
「ですね」
こちらは、私とシキの声。
ジャガイモのように見えた芋は、育てて行くうちにどうやらスライムにクラスチェンジする模様。
「とりあえず、茹でんべ。後は干して、一個は次のために私が食べるって事で」
「それじゃあ、お湯沸かしてまいりますね」
そう言っててくてくと歩み去るシキを見送って、ふう、と一息。
そろりとナギが書いているものを覗き込むと、何やら難しい文字が流暢に並んでおりました。
あれです、平安貴族の雅文字みたいな。
「何て書いてあるん?」
「ああ、これ…」
細い指先に持った筆をそっと硯に置いて、とろけるような笑みを見せるナギ。
上品な香がふわりとそこから漂い、思わず楽園が見える心地がいたしました。
ナギの唇が、文章を意訳して行きます――
いわく、
『もふもふしているものは全て可愛い。とにかく可愛い。異論は認めん。あれをなでる時が幸せだ。あれに埋まる時が幸せだ。いっそ全てがもふもふした宮殿はないだろうか。そこでは極上の…以下略』
優美な字で、何を書いていらっしゃるのかと思ったら、思い切り趣味話ですか。
そんな事を考えていると、背中がなんだかわさわさしました。ナギではありません。ナギは目の前にいます。
「ふおりゃっ!」
翼を跳ね上げるようにして、ごろんと床に一回転。
そんな感じでローリングした私の動きに釣られて、ぽーんと何かが天井に向けて打ち上げられました。
「…どんだけ軽いねん。」
打ち上げられたのは、ヨミでした。風を操るから軽いのでしょうか。
そんな事を思っていると、ふわりと空中で体勢を整えたヨミが、何食わぬ顔で着地しました。
見事な鉄面皮です。
ブレない美人は格が違いますね、恥ずかしがりもしないなんて。




