ミスマッチは突然に
…古木の、台座に、ダイヤモンドが。
そうとしか言いようのない光景に、ぼーぜんと立ちつくすキョウと私。
ちなみに私達、頭に衣笠、そして手に土筆のザルと言う格好でして。
こう、狸の置物が二体揃ってちょーんと並んだような調子で、縁側で固まっておりました。
「…あ」
先に硬直が解けたのは、私でした。
「あの時のーっ!?」
「ナギ様ーっ!?」
「あ、ヨミに追い出されちゃいました」
神々しい笑顔で、何かおっしゃいました。正座したダイヤモンドが。
のおおう。ありふれた本堂の一室が、一気に謁見の間に見えてまいります。
不思議な布は相変わらずその後ろでふよふよしておりますし、心なしか後光も差しているような…。
「…なして、ここに」
ぼーぜんとする私。その隣で、キョウも真っ白になっています。あれ?
ちょんちょん、とひじでつついても動きません。
「…キョウ?」
声をかけても反応なし。なんだどうした何があった。
「うりゃっ」
少し強めに突っつくと、ぱさ…とキョウがザルを取り落としました。
その衝撃で散らばる土筆。スローモーションのように茶色が四方八方に飛び散って、キョウの足元を飾ります。
「…ああ」
へなへなと座り込むキョウ。
花びら、いや土筆の散らばる大地に、色っぽく横座りになる姿が絵になっています。
やわらかいですね体、Sの字カーブがまたお見事。
「…フクを」
悲劇のキラキラで土筆をデコりながら、何やらキョウが涙ぐんでおります。
え、何? もしかして美人がまぶしかった? と首をかしげる私の前で、がば! とキョウが顔を上げました。
「フクを連れていかないでえぇぇ!」
――私?
ナギとキョウを交互に見比べ、かくんと首を傾げます。
ナギの方はと言えば、相変わらずにこにこと笑っているばかり。
ええと、私は月に帰る予定のお姫様でしょうか、それともお役目御免で元の世界にリターンでしょうか。
これと言って、何か大きなお仕事はしていないのですが。
どういうこと? と助けを求めるまなざしをナギに向けると、ふわりと扇で口元を隠したナギが、歌うような声でささやきました。
本当に、大きな声は出していないのに、上質な笛の音のように耳元を甘くくすぐる声です。
「連れて行きませんよ、キョウ。いま言ったじゃないですか」
「…ほんと?」
「ええ。なので、今日からよろしくお願い致しますね」
「あのー」
ちらちらと二人の様子をうかがいながら、落ちた土筆を集める私。
茶色い地面に土筆って見づらいんですよね……って、よし、全部集まった。
「とりあえず、続きは台所で話しません?」
土筆、下ごしらえに時間かかるんですから…。
二人分、山盛りの土筆を抱え込むようにしてそう目で訴えると、二人が順番にうなずいてくれました。
さ、支度支度。
ザルからこぼれた土筆がなんか風に運ばれてますが、気にしたら負けです。