こんにゃくレベル99
ぷっちぷっちぷっち…。
単調な音が響いております。
広い緑の野に、向かい合って座る私とキョウ。
そこで、せっせと摘んでいるのは土筆でした。
「ま、この調子だと順調に建つんとちゃう?」
「そうねー」
ぷちん。
根元から土筆を折り取って、ほいっとザルに投げ込みます。
日当たりが良く水はけも良い土では、スギナも土筆も生え放題。
育ち過ぎると傘が開いて風味が減ってしまいますので、しっかりと上が閉じているのを選ぶのがコツですね。
ちなみに、風味を苦いと感じる人には、傘が開いた奴をオススメ。私は苦い方が好きですが。
「あの芋、食べちゃダメ?」
「ただでさえ減ってるんだから却下」
あの芋、とは祖父から送られたこんにゃく芋の事です。
あの後、こんな毒芋食えるかい! とキョウに押し付けようとしてやめました。
祖父は確かにうっかりさんですが、孫娘に毒を送るとは思えません。
少なくてもキノコの見分けについてはプロ級です。だから大丈夫!…だと思いたい。
ちなみに芋を埋めた場所からは、小さな芽が出ておりました。
緑色の鮮やかな芽です。でも、最初に植えた数に比べたらはるかに少ない数の芽です。
…減ったんですよ。
破壊力抜群の味を持つ毒芋、もといコンニャク芋。
芋はあんなに過激なのに、生えた葉がちょっと傷つけられただけで枯れたんですよ!
しぶしぶ、次を生やすために、残った芋をまた食べました。
今度は、風で倒れて枯れました。
――泣きました。
「どんだけ貧弱なのさ、この毒芋ーっ!」
生えるまで最強で生えたら軟弱とか! 植物として何か間違っておりませんか!
まるでレベル99のスペランカーですよ。最弱勇者ですよ。
豹柄の挑発的な茎してるくせに、茎が一本しか出ないとか…倒れたらそこで終了とか、何と言う一本勝負。
フク、逝っきまーす!
何度、そんな気分で芋を口に放り込んだ事か知れません。
「…思い出したら口にエグ味が」
「後で美味しい料理作ってあげるからぁ。ね?」
うう、ありがとうキョウ。
あなたは、立派な主夫になります! 断言します!
そんな思いで摘みまくった土筆を持って立ち上がると、もふもふと石楠花が寄って来ました。
さりげなくキョウを避けて行くのは本能でしょうか…。
石楠花から紙を受け取り、ぺらりと広げて目を通します。
「シキからっちゃ」
「何て?」
『フク様、お客様がいらしておりますので本堂にてお待ち戴いております』
達筆な筆文字。書道だったら多分、段。
『タラノメを摘みに行って参りますので、早めにお戻り下さいね』
そこで手紙は終わっておりました。
顔を見合わせる私とキョウ。
「客?」
「ここに?」
郷に来客なんて珍しい、と思ったのは一緒だったようで――
本堂への戻りが、心なしか早足になりました。