そして女神へ…
どうも、フクと申します。現在、豊穣の女神やっております。
むしろ女神になりました。人間から神様にクラスチェンジしました。転生です。
こう言う風に書くと年季の入った老婆のようですが、れっきとした女子です。おなごです。
花も恥らう十代後半です。花より団子ですが、それでも十代です。
多良家の一人娘であり、神様にお仕えする巫女と言うのが私の肩書きでして、そりゃもう祖父の厳しい躾の元に育てられました。
――名目上は。
祖父曰く、多く良い事がありますようにと言う意味で苗字が「多良」なのですが、おかげで小さい頃のあだ名は「タラちゃん」でした。
どこの番組の幼児だよと違和感を覚えたのが小学生の頃で、せめて春子とか幸子とか、戦後に流行した「子」ぐらいつけて欲しかったと友人にこぼしました所、あだ名がタラちゃんからめでたくタラコちゃんになりました。
いやフツー、子は名前の方につけるだろう! とツッコむタイミングを逃したせいで、そのままタラコ決定です。
まあ、タラコも好きなので良しとします。おにぎりに入ってると幸せですね。
炊き立てのほかほか、ふっくらごはんにタラコ、素敵じゃないですか。
そんな感じで食事が趣味の9割を占めると言う生活を送った結果、体型もふっくら、もっちりと丸くなりました。
そもそもの原因は祖父です。まるまるとした赤ちゃんだった私に愛を注ぐあまり、思う存分食べさせたのです。
そしてまるまると育った私を可愛がったので、それが世間の常識からズレていると気付くまで、私も違和感を感じなかったのです。
そして――気付いた時には、世間との距離がグランドキャニオンもビックリな勢いで開いておりました。
だけど、めげません。食事好きとして料理番組は網羅、ご当地グルメだってバッチリ記憶!
美味しい場所を聞かれたら三秒で答えられる自信がつきましたよ。下手な検索システムより早いです。お任せ下さい。
そして美味は別腹とでも申しますか、それはそれはスリムな先輩方と、どういうわけか食事の話だけは一致するようになりました。
アイドル? わかりません。勉強? 食べられないからどうでもいいです。
ですが、食べ物の話だけは誰にも引けを取りません。アクティブでポジティブなデブと言う定評も戴いております。鉛筆ではありませんが、ブが三段活用です。3Bです。
そして運命の日となったその時も、先輩方と美味しいお好み焼き屋に行く予定でした。
だが、にっくきは多良家の一人娘と言うこの立場!
祖父の元に時々お告げ――と言うか謎の天啓――が来るらしく、そうなると私は山の上にある神様まで御参りに行かなければならないのです。
身をすすいで、髪を結って、巫女服に着替えていざ出陣。
なんという時代錯誤な話だと思いつつも、祖父曰くご本尊様は豊穣の女神様だそうですので、おろそかにすると良い店がみつからなくなるかも知れません。
…それは、困る。
そんなわけで、その日も大急ぎで裸体に水をぶっかけ、巫女服に袖を通し、お供え物を持ったうえで、山中に長々と伸びる階段へと私は足を踏み入れました。
鬱蒼とした木々が薄暗い影を落とし、しいんと静まり返った夜気に虫の声だけが響き、いかにも霊験あらたかな雰囲気を醸し出しています。
あ、デブはみんな体力がないなんてのは誤解ですよ、お相撲さんを見て御覧なさい。
何十段も続く階段だって慣れたもので、大して時間もかからずに着く――はずでした。
ただ、その日は違いました。
いくら歩いても歩いても、なかなか頂上に着かないのです。
狐に……いや、神様に化かされてしまったのではないかと思うほど、頂上が遠くて遠くて。
階段の段数でも数えていれば別だったのかも知れませんが、いざ頂上についた時には、先輩方との約束の時間をとっくに過ぎておりました。
夜空の月の位置が、それをハッキリと告げています。
私は腹が立ちました。
「いいっちゃね神様は、そうやって座ってるだけでいいんやもの! こっちは苦労して登っとーのにさ! ずりぃって!」
言葉が妙とか言わないで下さい、我が家語です。
遠地より嫁様を迎える風習が長らく続いた結果、各地の諸々をミックスした独自の言語へと発展致しまして、多良家語が完成したのです。
ともあれ、今思えば、なんて罰当たりな事をほざいたのかと思います。
ただ、小さな小さな本堂はしんと沈黙しているだけでして、私はお供え物を近くに降ろし、思い切り観音開きの扉を開けたのです。
その、瞬間――
ぶわっと、中から風が吹いて来ました。
あの小さな神棚の「内側」からです。
とうてい四角い空間には収まりきらないと思われる量の風に顔面を叩かれ、私は思わず目を閉じました。
そして目を開くと、目の前に皿がありました。あ、隣に人もいました。
皿の隣にちょこんと愛らしく座った和服の少女が、うやうやしく私に頭を下げて言ったのです。
「豊穣の女神、フク様。どうぞ、お召し上がり下さいませ」と。
――皿からこぼれんばかりの大根を差し出しながら。