オトメンの純情
うどの穂の揚げ物。野飼鶏の炭火焼き。
木の実入りヨモギ団子。そしてみずのたたき。
みずのたたきは山菜版トロロ、いやオクラとでも申しましょうか、ゆがいた綺麗なルビー色の茎を刻んでから包丁で叩き、山椒やワサビなどの香辛料とさっとあえたものです。
御飯にかけても実に美味しい、清流の恵み。山の葉。
これからの季節、暖地にわんさか生えて来るスベリヒユに匹敵する美味しさです。
「いただきます」
と、恵みに感謝する私の隣で、さっさと箸をつけるキョウ。早いって!
それでも「まともな食事」がよっぽど久しぶりだったのでしょう。
一口目で、ぱあっと笑顔をほころばせました。どこの料理番組ですか、とツッコミたくなるぐらいに。
「美味しーい!」
満面の笑顔で、それをほおばったキョウが、ずずいとシキに詰め寄ります。
ちょっとばっかり身を引いたシキの前で、ぴし、と箸で膳を示したキョウが、早口でまくしたてました。
「シキちゃあん、今度これの作り方教えて! ねっ、ね? フクより多く食べたりしないから!」
「つ、作るんですか?」
「そりゃあもう! 張り切ってシキちゃんの分も作っちゃう! いいでしょ!?」
「…はい」
わあ。
何という事でしょう、シキが気圧されてます。あのシキが。
承諾をもらって、笑顔でそそくさと席に戻るキョウ。
なんとなく可愛いです、これで本当の女か男かハッキリしてればなお良かったのですがっ!
「それにしても、今のフクが虫が苦手なんて驚きだわぁ」
ほっこりと湯気を立てる炊きたて御飯を箸にとらえながら、なにやら感慨深げなキョウ。
「先代は何でも食べたのにぃ」
「はあ」
ん? 何でも?
「もしかして、人も…?」
「そりゃそうよぅ。でなきゃ郷がこんなに栄えるわけないじゃない…」
やっぱりー!
「わ、私は食べないかんね!」
「いいわよぅ、もうこーんなに栄えてるんだもの。これ以上増やしたってナギ様は喜ばないと思うわぁ?」
フク頑張ったもんねー! と私の頭を撫でて来るキョウ。
いやその前に、増やしたの先代ですし。キョウと仲良かったのも先代ですし。
女に惚れ込まれる覚えは――いや、中身は男だけど、中身男だったらいいんでしょうか、どっちなんだ私!
「あ、あのねキョウ。私、先代じゃないってん、かいぐられても」
「えぇ? 中身が変わっても、フクはフクじゃない」
何ですかその斜め上。
姿が変わっても愛してますってフレーズは良く聞くけど、中身が変わってもってのは初耳ですよ!
そんなこんなで、昼餉を終えて。
建設中の蔵の様子見も兼ねて、散歩に出る事となりました。