飢餓の魔女はハナラッキョ
「――つまり」
足が痺れてまいりました。お小言、そろそろ一時間を突破します。
シキの前に正座する私、とシキが言うところの「天敵」な彼女。
よくよく見ればトカゲのような尻尾まであります。羽は…破れコウモリとでも申しましょうか。
とにかく、そんな感じです。でも色っぽいです。さすが魔女。
「私が、シキのお姉さんに選ばれた?」
「はい」
こく、と頷くシキ。
聞くところによると、どうやらシキのお姉さんが私を選んで、この郷に呼んだようなのです。
お姉さんは死んでしまったとかではなく、私がお役目を終えるまでどこかで眠っているんだとか。
ちょっと一安心です。だって祟られたら怖いじゃない。
天敵――つまり、飢餓の魔女のお名前はキョウ。
花楽キョウ。
彼女とシキの話によると、食べた物の将来をちょっぴり不安定にするのだとか。
もしかして芋虫全滅!? と一瞬焦りましたが、必ずしもそうではないようで。
一度減っても、じわじわと時間をかけてまた増えるそうです。
いやあ、良かった良かった。
…シキは全然良くなさそうですが。
「早く祠に戻って下さいね、キョウ様。キョウ様が食べるものは、この郷にはありませんので」
「いやぁねぇ、フクにもらったものしか食べなかったわよぅ?」
しらっと爆弾発言をするキョウ。固まる私。
「フク様…?」
「だ、だだだだって芋虫とか! 無理っちゃね!」
ええまあ、ハチノコならイケますよ、イナゴだって食べれますとも。
でもでも、芋虫は却下です! 毛虫もだめっ!
「豊穣の女神が好き嫌いしてどうするんですかーっ!」
「女神でも無理なもんは無理やーっ!」
のどかな田園に響く、シキの声と私の声。
お互いに叫ぶだけ叫んで、そして撃沈いたしました。ちーん。
「堪忍してえな、シキ。不作になっても困らんように、なんか考えるから、な?」
「何かって、何をです?」
「保存食」
いいんです、不作になっても困らないような保存食があれば、それで万事解決でしょうから。
コンニャクだって諦めていませんよ、味噌だってこれからです。
豆なら躊躇いなく食べられますしね! 増やしましょう大豆っ!
「キョウも一緒に。ええっしょ?」
こーなったら連帯責任で行きましょう! とキョウを見ると、何やら嬉しそうな顔をされました。
ううむ、こうしてみるとキョウも美人です。ちょっと黒薔薇でも咲きそうな美人ですが。
「フク様、米とかあげたらだめですからね」
「あい」
動物園で、餌を与えないで下さいと注意される気分ですけど、そこはそれ。
これからは、農薬代行を、キョウにやってもらいましょう。
その食事風景は…想像すると怖いのでパスです。
だって虫とか虫とか虫とか……考えたくありません。
びしびしと突き刺さるシキの視線に慄きながら、改めてキョウの方を向いて、ぺこりと頭なんか下げてみます。
「私を助けると思って、ここは一つ!」
「もちろん! 男として、女の子に頼まれて断るわけがないじゃない!」
返事は快諾、爽やかに何か言ってくれちゃった飢餓の魔女。
「…男?」
「そうよ?」
ぱちんとウィンクする魅惑的な魔女、もとい魔男。
何という逆宝塚。どーりでスリムで胸がないわけだ! だまされた!