珍客は突然に
「フク様ー、どちらにいらっしゃいますかー?」
あわわわわ…。
シキの足音が、頭上から響いて来ております。
私の現在位置は床の下。
忍者になりたい…と縁側の下で縮こまる私。
ふっかふかにしてもらった羽が土でキャラメル色にデコレーションされてしまいましたが、そんな事は二の次です。
芋の悪夢から逃れて、なんとか帰った私を、迎えてくれたのは笑顔のシキ。
しかも、ご丁寧に正座でした。
「フク様、ちょっとよろしいですか?」
「…はい」
のそのそと本堂に上がって、シキの前に正座する私。
体はシキより大きいですが、気分は一気にミクロサイズです。
「確認なのですが」
「う、うん」
「まさかとは思いますが、封印解いたりしてませんよね?」
「…封印?」
なんのこっちゃ、と目を丸くして、はたと思い当たるのは森で出会った彼女の事。
「ああ!」
ぽん、と手を打つと、シキの笑顔が深まりました。黒い方に。
「あ、」
――しまった、地雷、踏んだ。
一気に空気が氷点下です。雰囲気がいきなりブリザード。
「…え、ええとその。あれには深いワケが…っ!」
なごめ、なごむんだ空気!
急いで、良い匂いをつけてもらった翼をもっふもっふと動かしてみましたが、残念、ほがらかな香りに包まれた部屋で、シキの笑顔がみじんこぽっちも崩れません。
むしろ、極上の香りに包まれた牢獄のようになりました。
怒れる童様、目の前に降臨……いやん、怖すぎる。見逃して。
「あのですね」
「あい」
「ねえさまが巫になるって言った時点で、嫌な予感がしてたんですよ!」
「ふぁい?」
カンヌキ? カンナギ?
何のこっちゃと目を丸くする私に、爆弾発現第二段。
「天敵を解き放つとか、何考えてるんですかーっ!」
「失礼ねぇ」
にょき。
「のわあああぁぁ!?」
シキと私の間生えたのは、黒キノコ――ではなく、例の彼女。
黒い布に白い帯。私と逆の色合いです。
だがしかし、このタイミングで出てくるとか、あなたはどちらの鬼ですか。
「もらった物を食べただけじゃなぁい。ねぇ?」
「な、流し目で同意求められてもっ!」
改めてチラリとシキを見ると、その笑顔を彼女にまで向けております。
あああ、もうだめ。収集不能。
修羅場です、修羅場の予感です。
ああ…何ていい天気。思考が現実逃避しております。
そうだ、おそと、行こう。
バチバチと火花を散らす二人を残して、こそこそと私は逃げ出したのでありました。