泉の上でコンニチワ
大変な事になりました。
大惨事です。
なんかもう、蚊とハチとまとめてどーんとウェルカムっ! てな具合です。
かゆさと痛さの十字砲火です。
何が起きたのかサッパリですが!
「ふおおおおおぉぉ…!」
汽笛のような声を上げながら、私は坂を転がるように駆けて行きました。
途中から、もふっと丸まって、文字通り転がって行きました。
目指すは水、もとい泉。
どぱーん、と水飛沫を上げて泉に不時着し、両手両足を広げて水浸しになります。
ぷかーと水面をたゆたう私。なるほど水鳥が沈まないわけです。
翼のありがたみ、しみじみと実感。
まあ、神であるおかげか、違和感はやがて減りましたけど。
「…ちょ」
さりげなく、鳥の足場にされた事は、このさいです。文句言いません。
浮島扱いされたり、ちょっと巣材にされたりした事も許しましょう。
それにしても酷い目に遭いました。
祖父が、芋の種類を間違えた可能性に一票です……。
「おやおや、ずいぶんと元気ですねえ」
「兄上、なごんでいる場合ではありません」
そんな声が間近。
ちょっと、眺めてないで助けて下さい。
こちとら泉の「どまんなか」に浮いてるんですから。
「…ろみょ」
どうも、と言うつもりで顔を上げます。唇が腫れてタラコ唇です。
こんな所で本当のタラコになってもなあ、と思いつつ見ると、神々しいまでの美男子がおりました。
しかも二人。凛々しく穏やかな年上と、冷たい雰囲気のする年下です。
なんか羽衣みたいな薄布が、二人の周囲でゆらゆらしています。綺麗です。
ついでに、水の上に二人揃って立っていらっしゃるとか、どんな離れ技でしょう。忍者?
「あえ、もひかして」
もしかして、私が死んだからお迎えですか?
すいません、最後がこんな姿で。
お手数おかけいたします…。
「久しぶりに、面白いものを見れましたよ」
美男子(年上)が微笑みます。
「ふん」
美男子(年下)が足を引きます。
その直後、ちょん、と年下に爪先でつつかれた私が、すいーと岸の方にカーリングして行きました。