芋から始まる新境地
ガランゴローン…。
「一等賞ー」
はい、寝言です。
やけに濁った一等賞ですね…と思って目を開けると、目の前に芋がございました。
ガランゴロン鳴っていたのはアレです、神社の鈴か何かです。
玄関チャイムを「キンコーン」とやる要領で祖父が鳴らしたのでしょう、紐付き鈴を。
あったのは、ジャガイモを細くしたような姿の、ひんまがった芋が10個ぐらい。
そのお隣に、大中小サツマイモがありました。サツマイモなんて頼んでおりません。
2種類の芋を前に正座して、その意味を考えます。
念話は常に繋がるとは限らないようですし、次に繋がるのがいつになるのかも不明なので。
「ん?」
サツマイモをしげしげと眺めていると、小さく数字が掘られていました。
自然についた傷ではありません。
数字は一番小さいのが「一」で一番大きいのが「三」です。
どう見てもただの傷ですが。
「…三?」
始めてです。芋を手紙代わりにされたのは。
しかもヒントだけと来たもんです。
人生初の芋通信。ジーチャン、ここから推理しろってか。
「ま、やってみっかねー」
よっしゃ、と芋を一まとめにして風呂敷に包みます。
そのタイミングで木戸が軽く叩かれました。
「フク様?」
「起きとるよー」
そう答えると、正座したまま木戸を開いたシキが、膳に乗った朝食を出してくれました。
香味豊かな鮎の焼きものに、米。そして山菜のおひたし。春筍の水煮。
春筍は米ぬかでゆでただけのシンプルなものですが、これがまた甘い、春らしい風味を楽しめるのです。
素晴らしい。
「いただきまーす」
神様だって、食い物には感謝せにゃいけません。
ただし神妙なのは、両手を合わせて感謝するまで。美味は、あっという間に腹に収まります。
ほろほろと柔らかく崩れる鮎肉を一つ残らずつまんで、最後に茶でしめたら朝食終わり。
味噌汁がないのがちょい残念。やはり味噌は必須でしょう。
「フク様、それ何ですか?」
「ん? コンニャク」
「コンニャク?」
「そう言う種類なんよ。収穫にゃ、まだまだ先が長いけど」
「あ、はい」
「そうやねえ、とりあえず…」
と芋を一個手元に残してシキに差し出します。
その一個は私が食べるため。
じゃないと、生えるかも怪しいですからね、まずはさくっと行きましょう。
「植えてきて?」
「はい」
下げる膳に芋をプラスしたシキが、廊下の向こうに消えて行きます。
私は再び、じっと見つめあいました。
…コンニャク芋と。
これ、ジャガイモのサラダみたいに、ガブっと生でいけますかね…。
「芽は、取った方がいいかなあ」
毒で死ななくても、毒の味は勘弁ですから。
そうと決めたら包丁を手に取り、せっせと皮をむいて行きます。
最後に包丁の角を当ててちょいちょいと芽を取り、パクリと頬張れば完了。実にお手軽。
「うむ」
感触は芋。
味も芋。
…じゃ、なくて。
「ふぁるひゅっ!?」
何じゃこりゃああぁぁ!?
言葉にならない悲鳴をあげて、私が本堂から飛び出したのは、それからすぐの事でした。