ご神託は、「私に芋を」
郷に戻ると、宴はまだ続いていました。
酒が入って盛り上がる人もいれば、すっかり眠ってしまった子供達もいます。
どれもこれもが微笑ましい光景でした。
私も心配の種――いや、芋虫がなくなって心も手も軽い軽い。
気楽です幸せです、お仲間ひゃほーい!
え、芋虫の来年を約束しなくても良いのかって?
大丈夫です、虫は強いから、食べる物があればきっと困りません!
「ふっふっふ…」
るんるん気分で鍋に駆けより、にょき、と中をのぞきこみます。
具はだいぶ少なくなっていましたが、まだ少しだけ汁が残っておりました。
よしっ、
「フク様」
「へいっ!」
江戸前な返事になりました。
だって、私を呼んだのはシキです。
聞き間違えようもなく、シキの声です。
ぎぎぎ…と振り返ってみると、笑顔のシキがそこにおりました。
「フク様、どちらへ?」
「その、ちょっと……」
シキが怖いです。笑顔で怒ってます。
めっさ疑われております、私。神様なのに。
「こっ……」
「こ?」
「……こ、」
これを誰かに食べてもらいに、なんて言える雰囲気じゃありません!
「こ、って何ですか? フク様」
「こ、こここここここ…」
働け、働くんだ私の神ブレイン!
「こんにゃくを、探しにっ!」
――しまった、勢いの方向を間違った。
そして本堂。
「むー…」
念じます。ひたすら念じます。
火皿の明かりに囲まれた部屋で、私は一人、ひたすら集中しておりました。
とどけ私の神の声、誰かこれを聞き届けたまえ!
「覇っ!」
かけ声は気分です。
一応、神様である以上、気合を入れれば誰かに心ぐらい届くはず!
そんな適当な理由で、集中したいからとシキを部屋から追い出しました。ごめんなさい。
謎の気合を飛ばす事数分、「うーい」なんて言う間抜けな返事が。
通じた! 通じたよ! さっすが神様、やればできる!
ん? 今の声…。
「…源五郎?」
あ、祖父の名前です。
「ういうい。なんでしょーか」
「じーちゃん!」
間違いありません、祖父です。
私の声に気付いたのでしょう、祖父の方も問い返して来ました。念で。
「フク?」
「そうや! 何かしらんがこっちに来てもうて、もうどうしたらええのか……」
「ほほー」
心配してないですね、その対応。
「そっち、どーなってる? 騒ぎになっとらん?」
「ならんならん。まだフクが出かけてから5分しか経っとらんしな」
「そうなん?」
逆うらしまですか。
まあ、こっちじゃ年を取らないようだし、こうやって連絡取れるなら、別に困りはしませんけど。
「あんな、じーちゃん。色々聞きたいんやけど…」
「三分以内で」
「ラーメンか」
念話の時間制限とか、そんなの初めて聞きました。
だけど文句言ってもどうにもなりませんから、用件だけまとめるとします。
「過去にもこんな事あったん? あと、コンニャク送っとくれよ。それから農産物の育て方マニュアルと加工本!」
それに対して、祖父の答えは、
「神隠しから、一年ぐらいで戻って来たご先祖も多いって言うなあ。それと送れるのは食物だけだ、近々芋送るから待っとき」
ぷつん。
「…芋、か」
まあ、戻れる望みがあるのはいい事です。
とりあえず今は、こんにゃくを作れるようにするとしましょう。
「さ、寝よ寝よ」
明日には芋が届くでしょう。
がんばれ源五郎農速便。