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 次の日から『大きいヒト』はいろんな事を語り聞かせた。

 彼らの先祖がまだ大きな集落――国という集団を創っていた時代の話だった。その時代、『大きいヒト』は珍しくも無く、どこにでもいる獣のようにありふれた存在だったという。

 当時の『小さいヒトビト』は『大きいヒト』やその仲間を使役し、始まりを思うと気が遠くなるほど長く続く繁栄を謳歌していた。その原動力は『大きいヒト』で、本人が言うように主な用途は武器としてだった。長い繁栄は同時に敵を多く作ったと、『大きいヒト』は言う。

 その敵を屠るために『大きいヒト』は創られた。だから『小さいヒト』の武器は通じないのだと語り聞かせた。想像すらしない話に『小さいヒト』は驚きながらも、興味津々だった。

 話の中で『小さいヒト』が一番興味を示したのは、遠い先祖の暮らしぶり。自分達は食料を得るために旅を続け、季節によっては農業もする。だが危険な狩りをする事が一番多い。

 けれど古の時代はどうだったのか。それが気になって仕方が無い様子だった。

 ――当時の『小さいヒト』は狩りなどしなかった。少なくとも食料を得るという理由での狩りは無かった。それは絵を描き、歌を奏でるような、それは趣味と呼ばれる作業だった。

 ならば食料はどうやって得ていたのかと、『小さなヒト』は問う。

 ――貨幣という制度があの時代にはあった。物々交換のようなものだ。それと食料を交換していたのだ。だから食料を提供する人々もいて、だから食べ物を得るのには困らない。ただ貨幣を得るために働かなければならなかった。歌や舞いを職業とする者もいた。

 そんな世界があったのかと、『小さなヒト』は驚いた。便利そうだと言うモノもいたが、今の自分達に同じ事をするだけの技術が無い事はわかっていたし、意味も無かった。

 けれど諦めたわけではなかった。いつか自分達も同じ事をしたい。狩りをする必要が無い世界を生み出したい。そうなったらどれだけ幸せなのだろうと、『小さいヒト』は思った。

 季節ごとに旅を繰り返す落ち着かない生活から開放されるというだけで、そんな生活に疲れ果てていた彼らにとっては天国のようだった。

 ――けれど、その生活を保つためには他者から搾取する必要もあった。それによりたびたびと言うにはあまりにも多い頻度で、何度も何度も諍いが起こり、絶えなかった。その果てにわたしのような武器を生み出したのだろうと思う。

 さらに『大きいヒト』は続けた。

 ――繁栄の裏側には必ず影の部分があるのだ。それは慢心という心の油断。あるいは自らを過大評価するような。それらは常に身を滅ぼすのだろう。だから過去は過去となった。

 それはまるで戒めるような言葉で、『小さいヒト』は無言で頷いた。

 確かに狩りも旅もない日々は今よりは幸せかもしれない。

 けれどそんな時代が彼方に遠ざかった『過去』になってしまっているからには、それは想像を絶するような駆け引きや、気が狂うようなバランスが求められる『生き方』だったのだろう。

 ――しかしそなたらは大丈夫だ、『小さいヒト』よ。そなたらには自らを律する強くたくましき心が備わっている。それにそのように震えて恐れる事など何も無いのだ。なぜなら過去は過去でしか無い。学ぶものは多いだろうが、囚われる必要などどこにも存在しないのだから。

 優しい声で『大きいヒト』は言う。励ますように笑う。

 ――だから我らは我らの日々を。過去に負けぬ、けれど過去とは違う日々を送ろう。

 その後も『大きいヒト』はたくさんの話を、ところどころ曖昧になった記憶を何とか思い出しながら『小さいヒト』に聞かせた。乞われるまま、望まれるままに語り聞かせた。

 もう覚えている事は無い、もう話し聞かせられるような事は無いと『大きい人』が残念そうに言うのは、そう遠くない未来だった。

 そして『小さいヒト』は、ふとした時に思いを馳せる。

 遠い古の時代。自分達の先祖が『繁栄』を手にしていた時代に。

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