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草原の中に小さな集落があった。
その傍らには力なく座り込んだ、けれど山のように大きな何かがあった。
それはまるでヒトのような姿形をしていたが、発見した集落にあるどんな武器も太刀打ちできないほど硬く、それは不気味にも感じられる沈黙をひたすら守っていた。
神の発見から数年経ち、当時子供だったモノ達が大人になった。あれから幾度と無く神の発見を祝う祭りが盛大に行われ、神にはありとあらゆるものが奉げられた。
まずは食料。毎日、その日の狩りでしとめた中で一番の獲物を、数人の神官が祈祷して清めた道具と水を使って解体し、もっとも美味とされる部分を神の御前に奉げた。
けれど神は一言も発さない。まるでそう、死んでしまったかのように、彼らが流浪の果てに辿り着いた神はひたすらに沈黙を守り続けていた。
ある日、一人の娘が神の御前に参じ、舞いを奉納していた。右へ、左へ、娘は空を飛ぶ鳥のように舞い踊る。仲間の誰よりも美しい演舞を舞う彼女は、ふいに神が身じろぐのを見た。
――始めまして、美しい娘。
神はゆっくりと穏やかな口調で、笑うように娘に語りかけた。娘は一瞬驚いて何もいえなくなってしまったが、すぐににこりと微笑みを返した。そして神はゆっくりと立ち上がった。
ついに神が話された。そのお声を聞かせてくださった。彼らは大騒ぎした。これでとこしえの繁栄が約束された。もう飢える事も殺される事も無いのだと狂喜する。
けれど肝心の神は困惑した声で語った。
――始めまして、『小さなヒト』。けれどわたしは神ではない。
ならばあなたは何者なのかと彼らは問うた。
――わたしは、さらに大きなヒトに創られた。とてもとても昔。もしも神がいるとしたならばそれはわたしではないだろう。それはきっとわたしを創り出したモノ達だ。何者かに作り出されたわたしは神ではない。そんな素晴らしい存在になどなれるはずが無いのだ。
しかし、と彼らはさらに問いかける。
あなたの身体は我らの武器さえ通用しない。そんなはるかに優れた存在を、神と呼べないと言うのならば我らは貴方の事を何と呼べばいいのだろう。嘆くように彼らは問うた。
さらに困惑した声で、神は答える。
――それでもわたしは神ではないのだ。わたしもまた『武器』として作られた。遠い昔はわたしでさえ太刀打ちできない武器があった。それゆえに、わたしはこうして此処にいた。
しかし、と神は続けた。
――もしも新たな役目を与えられるなら、わたしはそなたらと共に行きたい。神になる事はできないと思うが、共に生きる事を許してはもらえないだろうか、『小さいヒト』よ。この通り姿形は似ているが違う。それでもわたしはそなたらと共に、『今』を生きていきたいのだ。
その申し出に『小さいヒト』はとても喜んだ。彼らは自分達が神だと思ったそれの事を『大きなヒト』と呼ぶ事にして、新たな仲間の一員として、対等な存在として温かく迎え入れた。
その夜、集落では祭りが行われた。
はしゃぐ子供達の中心にいるのは『大きなヒト』。
大人はそれを見ていた。これはこれで悪くないという表情で見ていた。