ヌヴェル14 涙について語ろう
「涙という漢字は、形成漢字といって、水を表す“さんずい(氵)”と、音を表す“戻(レイ・ルイ音)”の組み合わせでできているんですね。
なので、“戻”は、目から流れる液体を表す“なみだ”の音を示しているのであって、“戻る”という動作を表しているわけではないのです」
目の愛護デー10月10日にちなんで、講演会は“目”をテーマにした講演でプログラムが組まれている。
目黒さゆり先生の講演タイトルは、“涙について語ろう”。
壇上の白板に、“涙”の一文字が書かれている。
「でも私には、涙を流すことで「何かが戻る」「何処かに戻る」という感じがして、漢字の由来は、“戻る”という意味合いの方がしっくりくるんですね。
悲しいときに涙を流す。涙を流したことで、楽しかった過去に戻る。
嬉しいときに涙を流す。涙を流したことで、忘れていた幸せな気持ちに戻る。
どうです?みなさんもそう感じられませんか?」
「かつて戦争がありました。有無も言わせず男性は戦場に駆り出されました。夫婦も恋人同士も簡単に引き裂かれ、離れ離れになりました。
戦争が終わり、帰ってこない夫を想い、帰ってこない恋人を想い、涙を流した女性がたくさんいました。
そんな女性の周りには、楽しかった平和な日々が走馬燈のように回ったことでしょう。
戦争が終わり、無事に帰ってきた夫にすがり、無事に戻ってきた恋人にすがり、涙を流した女性もたくさんいました。
そんな女性の周りには、忘れていた幸せが百花繚乱のごとく咲き誇ったことでしょう
涙を流したことで、それぞれ美しいものを取り戻し、美しい場所に辿り着いたのです」
目黒先生は、白板の“涙”を消して、“泪”と書いた。
「これも、“なみだ”と読みます。“目”から流れる“水”を意味する会意文字です。
安土桃山時代の茶人・千利休が、豊臣秀吉から切腹を命じられたとき、最期に弟子の古田織部に渡した茶杓が今に伝わっていますが、この茶杓の名前が“泪”。この漢字で表されています。なんとなく重い意味合いがあるように感じますよね」
「そういう使い分けを前提にするならば、私は、こういう“なみだ”っていう漢字があってもいいんじゃないかなぁって最近思うようになってきたのです」
目黒先生は、壇上の白板の“泪”を消すと、青いマーカーで、“さんずい(氵)”に“美”という字を書いた。
「みなさんは、どう思われますか?」
参考文献 漢字文化資料館 https://kanjibunka.com/kanji-faq/mean/q0205/




