今度は私が助ける番って、思ったんだけどなぁ
市バスを降りた。
バス停は新しくなっていた。
十年前、私が家から逃げ出した時は、黄ばんだ時刻表だったのに、すっかり綺麗で読みやすくなってる。
わずかに口元を緩めた私は、表面をひとなでして、真っ直ぐに歩き出した。
流石に育った家だ、帰る道くらい覚えている。
一本曲がって、突き当たり。
「あ」
曲がってすぐに目に入った景色に、つい足を止める。
かつては駄菓子屋さんだった場所が、二軒の住宅に変わっていた。
昔、まだ幼かった私を、姉がよく連れてきてくれたっけ。
思い出に浸りかけて首を振る。
今日はその姉を迎えにきたのだ。
少しだけ、足が重くなった気がした。
中学生の時、姉が見せてくれた一枚の年賀状。
母の妹が送ってきたのだというそれは四つに裂かれ、セロテープで直されていた。
その翌日、親と口論になって殴られた私は、姉の机の引き出しからその年賀状を取り出して、叔母の住所を頼りに家出をした。
今はそれなりに仕事もして、少しだけど貯えもできた。
それこそ、姉一人なら一緒に住めるくらいに。
そう、だから、大丈夫。
実家が見えた、あまり外観に変化は無いようだ。
「……お姉ちゃん」
久しぶりに口に出して、少し心がくすぐったくなった。
会ったら、どうしよう。
何を言うかすら決められない胸の内を持て余しながら、手のひらを服の裾でこすった。
引き手に指をかけて、ひと呼吸。
ガラガラと記憶の中より軽くなった玄関を開く。
「はーい、どちら様?」
現れたのは、母だった。
「お姉ちゃんは?」
「え、あの、どちら様……っ!? 道子?」
驚きだ、私のことを覚えていたらしい。
「久しぶりだね、お姉ちゃんは?」
母はよそ行きの顔を剥がしたかのように、目を吊り上げ、口を歪めた。
「なにをっ! あんた達が二人ともいなくなったせいで、お母さんがどんな目で見られたかっ!」
振り上げられた右手の手首を掴んだ。
「あんた達って、どういう事?」
「離しなさい! 二人ともいなくなって、学校の先生まで来たのよ!?」
言われるがままに手を解放して、背を向ける。
「ちょっと!?」
後ろで母が喚いていたが、外までは追ってこない、そういう人だ。
「お姉ちゃん」
声は、掠れていた。
逃げられたんだ。
かつての記憶が蘇る。
私を庇ってくれた姿、頭を撫でてくれて、勉強は全て姉から教わった。
呼びかければ、いつも、
『どうしたの?』
って。
逃げられたんだ。
……私がいなければ、とっくに。
チャッピーさんに練習用としてお題もらって書いたお話です〜
お題
十年ぶりに故郷へ帰ってきた。
迎えてくれるはずだった人物は、もういない。
条件はこの4つだけ。
800字以内
「悲しい」「寂しい」「涙」「泣く」は使わない
読者に喪失感を伝える
ジャンルは自由(中華、和風、現代、ファンタジー、SF、何でもOK)




