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今度は私が助ける番って、思ったんだけどなぁ

作者: 横山
掲載日:2026/08/08

 市バスを降りた。

 バス停は新しくなっていた。

 十年前、私が家から逃げ出した時は、黄ばんだ時刻表だったのに、すっかり綺麗で読みやすくなってる。


 わずかに口元を緩めた私は、表面をひとなでして、真っ直ぐに歩き出した。

 流石に育った家だ、帰る道くらい覚えている。

 一本曲がって、突き当たり。


「あ」


 曲がってすぐに目に入った景色に、つい足を止める。

 かつては駄菓子屋さんだった場所が、二軒の住宅に変わっていた。

 昔、まだ幼かった私を、姉がよく連れてきてくれたっけ。


 思い出に浸りかけて首を振る。

 今日はその姉を迎えにきたのだ。

 少しだけ、足が重くなった気がした。


 中学生の時、姉が見せてくれた一枚の年賀状。

 母の妹が送ってきたのだというそれは四つに裂かれ、セロテープで直されていた。

 その翌日、親と口論になって殴られた私は、姉の机の引き出しからその年賀状を取り出して、叔母の住所を頼りに家出をした。


 今はそれなりに仕事もして、少しだけど貯えもできた。

 それこそ、姉一人なら一緒に住めるくらいに。


 そう、だから、大丈夫。

 実家が見えた、あまり外観に変化は無いようだ。


「……お姉ちゃん」


 久しぶりに口に出して、少し心がくすぐったくなった。


 会ったら、どうしよう。


 何を言うかすら決められない胸の内を持て余しながら、手のひらを服の裾でこすった。

 引き手に指をかけて、ひと呼吸。

 ガラガラと記憶の中より軽くなった玄関を開く。


「はーい、どちら様?」


 現れたのは、母だった。


「お姉ちゃんは?」


「え、あの、どちら様……っ!? 道子?」


 驚きだ、私のことを覚えていたらしい。


「久しぶりだね、お姉ちゃんは?」


 母はよそ行きの顔を剥がしたかのように、目を吊り上げ、口を歪めた。


「なにをっ! あんた達が二人ともいなくなったせいで、お母さんがどんな目で見られたかっ!」


 振り上げられた右手の手首を掴んだ。


「あんた達って、どういう事?」


「離しなさい! 二人ともいなくなって、学校の先生まで来たのよ!?」


 言われるがままに手を解放して、背を向ける。


「ちょっと!?」


 後ろで母が喚いていたが、外までは追ってこない、そういう人だ。


「お姉ちゃん」


 声は、掠れていた。


 逃げられたんだ。


 かつての記憶が蘇る。

 私を庇ってくれた姿、頭を撫でてくれて、勉強は全て姉から教わった。


 呼びかければ、いつも、


『どうしたの?』


 って。


 逃げられたんだ。




 ……私がいなければ、とっくに。

チャッピーさんに練習用としてお題もらって書いたお話です〜

お題

十年ぶりに故郷へ帰ってきた。

迎えてくれるはずだった人物は、もういない。

条件はこの4つだけ。

800字以内

「悲しい」「寂しい」「涙」「泣く」は使わない

読者に喪失感を伝える

ジャンルは自由(中華、和風、現代、ファンタジー、SF、何でもOK)

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