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神社は二重に管理されている

 怪異対策課に回ってくる案件の多くは、最初から怪異らしい顔をしていない。

 それは苦情だったり、照会だったり、ただの内部連絡だったりする。


 その日、齋藤万央(さいとうまひろ)の机に置かれたのは、コピー用紙一枚の内部メモだった。


 件名:「境内清掃回数の増加について」

 対象:市内鳴弦神社

 内容:清掃委託回数変更の事後報告


 特別な言葉は、何も書かれていない。

 万央は一読して、机に戻した。

 それだけなら、対応は不要だ。

 だが、その紙を指先で押さえたまま、後輩が立っている。


「……斎藤さん」


 善野亘(よしのとおる)だった。

 怪異対策課に異動してきて一年ほど。

 真面目で、声が大き過ぎない。


「これ、気になりませんか」

「どの辺りが?」


 万央は椅子に背を預けたまま、問い返す。

 善野は一瞬言葉を探してから、答えた。


「増やし方、です」


 善野はメモを指さす。


「月二回だった清掃が、いきなり週三回です。しかも“落ち葉が多いため”って理由が、三回続いてる」


「秋ですからね」

「はい。でも、苦情が一件も出てません」


 万央は、眼鏡の奥、少しだけ目を細めた。

 怪異対策課に来る職員は、大きく二種類に分かれる。


「見えるものを信じすぎる者」と、「見えないものを疑いすぎる者」。

 善野は、そのどちらでもなかった。


「……現地、行きますか」

「お願いします」


 即答だった。




 鳴弦神社は、紋霞市の中でも古い部類に入る。

 だが、観光地ではない。

 近所の人が参拝し、犬の散歩が通り、季節ごとに落ち葉が積もる、ごく普通の場所だ。


 境内は、きれいだった。

 掃かれている。

 だが、掃き過ぎていない。


 万央は、足元を見る。

 落ち葉はある。しかし、量が一定だ。


「……減ってませんね」


 ぽつりと、万央が言う。

 善野は頷いた。


「はい。毎日、同じくらいです」


 掃いても掃いても、「減らない量」が残る。

 万央は、これを怪異だと断定しなかった。

 ただ、理解した。


「ここ、管理されてますね」

「神社が、ですか」


「落ち葉が」


 善野は、少し考える。


「……数を、保ってる?」


「そう」


 落ち葉は、溜まりすぎると「場」になる。

 場になると、人が気付く。

 気付かれると、定着する。

 だから、ここでは――減らさず、増やさず。

 管理されている。




 怪異対策課に戻り、協議は短かった。

 危険性なし。

 被害なし。

 ただし、固定化の兆候あり。


「対処、どうしますか」


 課長が聞く。

 万央が答える前に、善野が手を挙げた。


「清掃回数、変動制にできませんか」


 室内が、少し静かになる。


「固定すると、そこに“居つく”と思います」


「……揺らす?」


「はい。増やしたり、減らしたり。理由は“天候”で」


 課長は、万央を見る。


「斎藤さん」


「妥当かと」


 万央はそう言った。

 一定を保つ怪異には、一定を与えない。

 それだけのことだ。




 数週間後。

 清掃回数は安定し、境内は普通になった。

 落ち葉は、落ちるときに落ち、風で散る。

 誰も数えなくなった。

 報告書の結語には、こう記された。


「管理行為に揺らぎを導入し、定着化を防止。

 当面、経過観察とする」


 万央は、提出前に一度だけ、善野を見る。


「善野くん」

「はい」


「見えないもの、見ようとしなくていいですよ」


 善野は少し驚いた顔をしてから、笑った。


「……はい。書類で分かれば、十分です」


 万央は、それでいいと思った。

 怪異は、見える者だけが扱うものではない。

 制度で揺らせるなら、それが一番安全だ。

 その日も、怪異対策課の窓口は静かだった。



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