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住民税を払う鬼

 平日の午前。

 怪異対策課に、税務課から内線が入った。


「……斎藤さん、ちょっと見てほしい案件があるんですが」


 声の調子は困惑しているが、切迫はしていない。

 つまり――事故ではない。




 万央(まひろ)は税務課側に提示された資料を見た。

 単身世帯。

 紋霞市(あやかし)在住。

 氏名、山川主悦(やまかわちから)


 住民税が異常に高額だった。

 延滞・未納はなし。収入申告は合法。副収入もない。

 ただし、毎年、税額が()()()()()()()()()

 その増え方が、景気とも年齢とも合っていない。

 明確な不正は無いが、()()()()()()

 税務課職員は、迷いながらも口にする。


「稼いでるっていうより……“余ってる”感じなんです」




 万央(まひろ)は、現地確認へ赴いた。

 表向きの名目は「課税内容の説明と聞き取り」だ。


 訪問先は、ごく普通のマンションだった。

 郵便受けはきれい。ゴミ出しは完璧。近隣トラブルの記録も無い。

 玄関先に出てきた、山川主悦は穏やかな男性だった。

 年齢は四〇代前半くらいに見え、体格はがっしりしている。

 清潔に洗濯された作業着を身につけ、落ち着いた表情をしていた。

 万央は自然に思った。

 ――感じのいい人だ。




 山川は、素直に言う。

「税金が高いのは、分かってます。文句はないです。()()()()()

 ただし、少しだけ言い淀んで続ける。

「ただ……余るんです」

 山川は、何が、とは言わない。


 部屋に上がってすぐ、万央は気付いた。


 家具が頑丈過ぎる。

 床に歪みがない。

 食器が欠けていない。


 力を使っている形跡はない。


 なのに、空気が張り詰めている。

 身体に感じる圧が、重い。


 万央は、「霊感」ではなく、業務経験としての違和感だと認識した。


 万央は、事務的に尋ねた。

「……生活に、支障はありませんか」

 山川は一瞬だけ黙り、それから答える。

「怒らなければ、何も起きません」

 感情を抑えているのが、見て取れた。


「昔は、山にいました。今は、紋霞市(ここ)に住んでます」


 はっきりとは言わない。

 だが、万央には十分だった。


 山と川に満ちる力を宿す存在。

 怪異。


 山川主悦は、自分は鬼であると告げた。


 鬼は暴れない。

 だが、体に「力」が溜まる。

 現代社会では、使う場所がない。

 使わないと、自然と周囲に影響が出る。

 結果として、無意識に重さが漏れる。


 税制度がそれを「能力値」として拾ってしまう。

 その結果的として、住民税が上がっていた。


 山川は言う。

「人間の仕組みは、正直ですね」




 怪異対策課にて協議が行われた。

 危険性は低い。

 被害も出していない。

 だが、放置すれば、力が飽和する可能性がある。


 古参職員は頭を掻いた。


「昔なら、山に返したんだがな」


 課長は頷いて、続けた。


「今は、もう山が無い」


 沈黙が満ちた。

 危険度が低く、被害も出していない、鬼。

 万央が手を挙げた。


「祓わない。追い出さない。でも――使い切らせる、というのはどうでしょうか」




 万央は再び山川の家を訪れていた。

 提案はこうだ。


 税額はそのまま。

 だが、新たに「地域防災協力者」枠を設ける

 災害時、重機の代わりとして倒壊物の除去や、夜間作業を行う。

 形式上はボランティア登録。

 だが実質は、力の()()()だ。


 山川は少し考え、言う。

「……それなら、余らないですね」

 万央は答える。

「余っても、置いていく場所はあります」


 数か月後。

 住民税は微減。苦情は無し。

 そして防災課から山川主悦へ、形式的な感謝状が渡された。

 報告書はこう結ばれている。


「対象は安定。

 制度内対応により、力の滞留を解消。

 継続観察とする」




 斎藤万央は、自分の仕事をこう捉えている。

 怪異を消すことではない。

 人外を排除することでもない。


「溢れないように、流す」



 その日も、怪異対策課の窓口は静かだ。



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