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鬼は行事予定表を確認する

 月曜日。

 怪異対策課のホワイトボードに、いつの間にか一行増えていた。


【注意】

 来週水曜 午後

 防災課との合同訓練(軽作業)


 書いた字は、妙に丁寧だった。

 善野亘はそれを見て首を傾げる。


「……これ、誰が書いたんですか?」


 古参職員はコーヒーを飲みながら答える。

「課長じゃないか?」


「課長、こんな丸い字でしたっけ」


 万央は黙ってボードを見てから、消さずに言った。

「書いた人は、参加者でしょう」


 その日の午後。

 怪異対策課に、見慣れた体格のいい男性が現れた。

 山川主悦(やまかわちから)だった。

 今日は紙袋ではなく、ファイルを持っている。


「すみません。確認したいことがありまして」


 万央が応じる。


「どうしましたか」

「この“軽作業”というのは、どの程度まで含まれますか」


 ファイルを開くと、コピーされた市の行事予定と、防災マニュアルが几帳面に挟まれていた。

 付箋まで貼ってある。


 善野が思わず口を挟む。


「……全部、読んだんですか」

「はい」


 山川は当然のように言う。

「決まりごとは、守りたいので」


 万央は少し考え、

「人が怪我をしない範囲です」

 と答えた。


「なるほど」

 山川は納得したように頷いた。


「では、瓦礫の移動までですね」

「重機が必要な規模は不可です」


「分かりました」


 完全に行政対応だった。

 そのやり取りを見て、古参職員が小声で善野に言う。


「……もう市職員でいいんじゃないか」

「鬼枠の非常勤、ですかね」


 山川は書類を閉じ、ふと思い出したように言った。


「そうだ。前回の和菓子ですが」

 万央が身構える。


「床は無事でした」

「それは何よりです」


「次は、寒天系にします」

「季節感は大事ですね」


 その会話を聞きながら、善野は思った。

 ——鬼って、こんなに気遣いする存在だっただろうか。


 だが、万央は気にした様子もなく、いつも通りだった。


 怪異を特別扱いしない。

 排除もしない。

 ただ、溢れないように調整する。


 山川は帰り際、入口で一度立ち止まり、振り返る。

「……ここは、居心地がいいですね」

 万央は即答しない。

 少し間を置いてから言った。


「居座る場所ではありませんが」

「分かっています」


 鬼は穏やかに笑った。

「でも、戻ってきていい場所だ」

 万央は、その言い方を訂正しなかった。




 その日も、怪異対策課は静かだった。

 苦情は来ない。

 事故も起きない。

 ホワイトボードの予定だけが、少しずつ埋まっていく。


 その中に、消されないまま残る文字があった。

「不定期:差し入れ(寒天可)」

 誰も、それを問題にしなかった。



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