ひとり多い
平日の午前十時。
怪異対策課に、保育課経由の連絡が入った。
「……人数が合わないんです」
声の主は、市立ひかり保育園の園長だった。
切迫感はない。
ただ、困っている。
齋藤万央が現地に着くと、園はにぎやかだった。
泣き声と笑い声。走る足音。積み木が崩れる音。
どこにも異常はない。
だが――
「二十人クラスなんです」
園長は名簿を指差す。
「でも、二十一人いる日があるんですよ」
増えるのは、決まって午前中。昼食前まで。
お迎えの時間には、必ず二十人になる。
「数え直しても?」
「何度も」
園長は苦笑する。
「不思議なんですが……誰も困ってなくて」
万央は、園児たちを観察する。
滑り台。砂場。絵本コーナー。
子どもたちは自然だ。
一人だけ、特別な服装の子もいない。
ただ――
ブロック遊びの輪に、必ず一つ、空間がある。
誰かが座っている前提の、間。
そこに、子供たちは普通に話しかけている。
「ねー、これあげる」
「あとでね」
「さっき、鬼ごっこした」
万央は、静かに言った。
「……この園、昔は?」
園長は、少し考えてから答える。
「神社がありました。小さいですけど」
裏庭。
今は遊具が置かれている場所の隅に、小さな石が残っていた。
丸く、削れたような形。
万央は、しゃがむ。
「子供が好きな神様、ですね」
「神様……ですか?」
「ええ。見守るだけの」
午後。
保育士たちに聞き取りをする。
「増えてる子、どんな子ですか?」
全員、少しずつ違うことを言う。
「元気な子」
「静かな子」
「泣いてる子を撫でてた」
共通点は一つ。
「いい子です」
万央は判断する。
危険性なし。
被害なし。
むしろ、保育の補助になっている。
問題は――制度だけだ。
怪異対策課に戻り、短い協議。
結論は簡単だった。
「数えない」
対応内容。
・名簿は二十人のまま
・点呼は職員が把握している人数のみ
・事故報告対象外
そして、保育課向けの一文。
「文化的背景に基づく一時的同席と解釈する」
園に戻った万央は、園長に伝える。
「この子は――園児ではありません」
園長は少し驚き、すぐに納得する。
「じゃあ……」
「見守り役です」
その日から、変わったことは一つだけ。
おやつの時間。
小さな皿が、一枚だけ余るようになった。
誰も気にしない。
捨てもしない。
数か月後。
園児数が増え、クラス編成が変わった。
二十一人が、正式な定員になる。
その日。
裏庭の石は、少しだけ土に沈んだ。
報告書の結語。
「子どもに好意的な小神。
成長段階に応じ、自然消退を確認」
万央は思う。
すべての怪異が、解決を求めているわけではない。
ただ、居場所がほしいだけのものもある。
それを、追い出さない。
それもまた、仕事だ。
保育園から聞こえる歌声を背に、万央は庁舎へ戻った。




