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それでも名簿は増える

 再発防止策は、いつも後から来る。

 事件が起き、原因が整理され、責任の所在が言語化されたあとで、ようやく制度は動く。


 小鳥遊和彦(たかなしかずひこ)事案から、二週間。

 紋霞(あやか)市役所本庁舎、会議室。

 怪異対策課、教育委員会、人事課、総務課が集められていた。

 目的は一つ。

 名簿管理の見直し。


「今回の件は、削除不能なデータが、人の“役割”を固定化した結果です」

 斎藤万央(さいとうまひろ)は、淡々と説明した。

「人がいなくなっても、役目が残れば、名前は留まる」


 ホワイトボードには、簡潔な図。

 人 → 役割 → 名簿

 その下に、赤字で。

 役割の終了条件が未定義


「対策として、全当直・非常勤・臨時業務に()()()()()を追加します。完了は、“業務終了”ではなく、“責任終了”と定義」


 誰も反論しなかった。

 誰もが、小鳥遊和彦の名前を思い出していた。


 制度改訂は静かに行われた。

 公表はされない。

 だが、確実に反映される。


 ・名簿には必ず終了日を入れる

 ・削除理由を自動生成しない

 ・人ではなく、役割単位で管理する


 書類は、増えた。

 だが、留まる名前は減った。


 数日後。

 紋霞大学前駅前交番。

 杜下卓(もりしたたくみ)は、掲示板を眺めていた。

「……減りましたね」

 夜間巡回当番表。

 余分な一行は、もうない。

 万央は頷く。

「今回は、ちゃんと終わらせましたから」


 杜下は少し考えてから言う。

「でも、全部が全部、こう上手くいきますかね」


 万央は、即答しなかった。

 代わりに、市役所に戻り、自分の机に向かう。


 机の引き出し。

 鍵付きのファイル。

 そこに、一枚のメモが増えていた。

 未整理案件:三


 内容は、書かれていない。

 だが、増えている。


 万央は、それを見ても、特に表情を変えなかった。

 ペンで、日付だけを書き足す。


 怪異は、なくならない。

 制度は、追い付かない。

 それでも――

 流れを作ることはできる。


 万央は思う。

 祓うのではない。

 閉じ込めるのでもない。

 終わらせる。


 それが、自分の仕事だ。




 怪異対策課の窓口は、今日も静かだ。

 だが、名簿は今日も更新される。

 誰かの名前が、増えないことを祈りながら。



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