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当直表が一つ多い

 当直表は、必ず数字が合う。

 人数と日数。

 欠勤と代替。

 それが合わないと、現場が回らない。

 だからこそ、違和感ははっきりしていた。




 紋霞市立第一中学校。

 職員室の奥で、教頭は当直表を見下ろしていた。


「……一人、多いんです」


 言い切りだった。

 当直は本来、教員三名体制。

 だが、表には四枠ある。

 曜日も、担当も、綺麗に割り振られている。

 余計な一枠だけが、浮いていた。


「削除しましたか」

 万央が尋ねる。


「はい。その日の当直を三名に戻しました」

「結果は」


 教頭は、苦笑した。

「翌朝、戻っていました」


 しかも、書き方が違う。

 赤ペンではない。

 訂正印もない。


 まるで、最初からそうであったかのように。




 万央は、当直表の写しを受け取る。

 四枠目の名前。

 小鳥遊和彦(たかなしかずひこ)

 万央は、指でなぞった。

 筆圧が、妙に均一だ。

 書いた人間の癖がない。




 その日の夜。

 紋霞大学前駅前交番では、杜下卓(もりしたたくみ)が一人、書類を書いていた。

 無線が入る。

「第一中学校、校内警報作動」

 杜下は顔を上げる。

「侵入ですか」

「反応はあるが、映像なし」

 嫌な種類だ。




 校舎は、静かだった。

 鍵は閉まっている。

 破損もない。

 だが、理科室の明かりだけが点いていた。

 杜下は、呼びかける。


「警察です。中にいる方、出てきてください」


 返事はない。

 代わりに、音がした。

 ガラス器具が、元の位置に戻る音。

 棚が、きちんと閉まる音。

 人が、作業を終える音だった。




 理科室の黒板。

 《当直業務、完了》

 その下に、小さく。

 《引き継ぎ先:未定》

 杜下は、無線を入れる。

「怪異対策課、お願いします」




 万央が到着したのは、夜の十時を回ってからだった。

 杜下は、黒板を指す。

「これ、書いたばかりです」

 万央は頷く。

「……当直表通りですね」

 杜下は一瞬、言葉を失う。

「通り、って」

「四人分、仕事をしている」




 万央は、理科準備室を見渡した。

 消耗品は補充され、危険物は正しい棚に戻っている。

 どれも、教科書通り。

 完璧すぎて、人間味がない。


「……小鳥遊先生は、当直を“引き継げていない”」


 万央は、そう判断した。

 職務は終わらない。

 終わらせてもらっていない。




 その瞬間。

 杜下の足元で、音がした。

 床が、軋む。

 誰かが立っている位置だ。

 杜下は、反射的に一歩下がった。


「……いますか」


 返事はない。

 だが、万央は言った。


「今は、いません」

「……え?」


「当直は、もう終わっていますから」




 万央は、黒板に近づき、チョークを取った。

 小鳥遊和彦の文字の下に、静かに書き足す。

 《引き継ぎ先:教育委員会管理課》

 それは、人ではない。

 だが、制度だ。




 その夜。

 当直表は、三枠に戻った。

 四人目の名前は、消えていない。

 だが、別紙に移されている。

 分類はこうだ。


「業務終了・管理移管」


 杜下は、それを見て言った。


「……これで、終わりですか」


 万央は首を振る。


「終わったのは、当直だけです」


 名簿の名前は、まだ残っている。

 終わらせるには、もう一段階、必要だった。



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