ヨリヤミ③
「夕日さん。どうして、闇に堕ちてしまわれたのですか?」
降り注ぐ、撫子の落ち着いた問いかけ。
その声音はいつもの淑やかな撫子の声音そのもの。
そしてその表情もーー
「話せること。それがあればお話していただけませんか?」
いつもの、余裕に満ちた撫子そのもの。
しかし、夕日は答えない。
こちらを見下す撫子の姿。その姿を見つめ、ただ静かに闇を纏うのみ。
「話したくないのですか? うーん。それは困りましたね」
「できることでしたら……争わずに解決したかったのですが、夕日さんがそのつもりなら仕方ありませんね」
顔は笑っている。
しかしその目に宿るは如月 夕日に対する混じり気のない殺気。
青のオーラ。それが撫子の背後で龍のカタチをとり、大きく両翼を広げる。呼応し、撫子の手に握られるは魔法のステッキ。青々と光り輝く神秘の賜物。
だが、夕日は動じない。
「魔法。少女」
呟かれる、夕日の言葉。
「わたしの大切なモノを奪ったそんざい」
抑揚のない声。
無機質で感情の灯らない声音。
「かえして。かえして。かえして」
「かえせ。かえせ。かえせ」
「あらあら、ふふふ。大切なモノというのはその子犬のことでしょうか? 闇に堕ちた分際でまだそんなゴミに未練があるのですか?」
夕日の腕の中。
その中に抱えられた子犬の亡骸。
それを見つめ、撫子は笑う。
そして、吐き捨てた。
「闇は闇らしく。魔法少女の敵なら敵らしく。もっと化け物らしく振る舞っていただけませんか? 夕日さん。あなたは闇に堕ちてもなお……無能を晒すのですか?」
夕日に照準が合わせられる、ステッキの先端。
そこに宿るは、青の神秘。
曰く。【束縛】の神秘。
大和 撫子。その力は、束縛。
闇の身動きを封じ、その力を奪う魔法少女。
「撫子」
「その闇は、赤澤 茜を侵食した」
撫子の側。
そこに現れ、茜の【侵食】を告げる小さきモノ。
「だから、撫子」
「絶対に油断はしないでね」
一瞬、撫子の表情が陰る。
しかし、撫子の顔はすぐに元に戻る。
「茜さん。やっぱり、貴女が一番はじめでしたわね」
胸中で呟く、撫子。
後先を考えずに突っ込む性格。
赤の神秘の特性といえばそれで終わり。
【粉砕】の神秘。考えるより先に、身体が動いてしまうのがその弱さ。
茜と行動を共にした時の記憶。
それを思い出し、撫子は微笑む。
「では、これは。茜さんの仇討ちということになるのかしら? ふふふ。まっ、どちらにしても貴女を殺すことには変わりはありませんが」
〜〜〜
「撫子」
「お前はこの家を継ぐ為の存在」
「決して自由になりたい。などと妄言を呈するのではないぞ」
「お前は鳥籠の中の鳥。外に出なくとも、なにも困ることはないのだからな」
【束縛】
【束縛】
【束縛】
大きな和室の隅っこ。
そこで頭を抱え蹲る、小さな少女の姿。
その手足には手錠。その首にも首枷。
大きな柱に繋がれ、その少女はずっと震えていた。
〜〜〜
夕日の脳内。
そこに流れ込む、撫子の記憶。
それは、夕日の闇が無意識に夕日に【癒し】を与えていることによる影響。
曰く。
大和 撫子のことを知らない。という苦しみ。
それから夕日を癒す。という闇の意思なのかもしれない。
だが、夕日の意思は揺るがない。
「ころす」
呟き、夕日は意思を表明する。
【癒す】
【大和 撫子。その存在を貫くモノがない。その苦しみから】
刹那。
闇はカタチをとり、闇色の剣となって宙を浮き、撫子を容赦なく貫いたのであった。




