漆黒の魔法少女①
川路。そこを歩く、夕日。
ぽつりぽつりと街灯の光が点在し、人の姿は夕日以外に無い。
月は淡く空間を照らし、世界を白く彩る。
視界が黒く染まる。心が冷たく軋む。
一歩前に進む度。夕日の足元には、漆黒が波紋となって広がっていく。
風になびく漆黒のドレス。
風に揺れる夕日の髪。
闇色の瞳に光は無い。あるのは、揺らぐことない【光】に対する敵意のみ。
聞いたことがある。
魔法少女が相対すべき存在。
それは、負の思いがカタチをとったもの。
命あるモノ全てが持つ陰の部分。それが、惹かれ合い結合しカタチを為したモノであると。
ひび割れた記憶の片隅。
夕日は、それに触れる。
"「魔法少女の役目。それは、その寄闇を浄化すること。カタチを崩壊させ、ただの闇に戻ったところをそのステッキで」"
ノイズの混じった記憶の中の声。
だが、それを遮るかのようにーー
「居たよッ、茜!! 闇だ!! しかも人のカタチをしているよ!!」
耳障りな声。
それが響く。
しかし、夕日は反応しない。
ただ静かに、宙を浮く茜の【小さきモノ】を見据えるのみ。
同時に、夕日はぎゅっと子犬の亡骸を抱きしめる。
その顔は無機質。だが、その眼に宿る闇は明らかにその濃さを増していた。
「茜ッ、はやく!! 人の姿をしたヨリヤミの周囲への侵食速度ッ、それは他のヨリヤミとは比較にならない!!」
響き続ける声。
呼応し、もう一つの声もまた響く。
「わーってるよ。ちゃっちゃっと浄化すりゃあいいんだろ? ちゃっちゃっと終わらせてダチと合流してぇし」
ゆらりと。
夕日の視線の先に現れる一人の少女。
風に揺れる赤髪。真紅に身を包み、その顔には隠しきれぬ自信が滲んでいた。
赤澤 茜。
夕日の脳内。
そこに少女の名は羅列される。
真紅を纏った拳。
それをもってヨリヤミの形状を崩壊させ、強制的にヨリヤミを浄化することをその戦法とする魔法少女。
知っている。
夕日は知っている。
なぜなら、つい先刻まで行動を共にしていたのだから。ついさっきまでーーいっしょに居たのだから。
夕日の足元。
そこに広がる闇。それが、夕日の意思に呼応するかのように蠢く。
「茜ッ、油断は禁物だよ!! 人のカタチをしたヨリヤミ!! それはーーッ」
「うるさい」
呟かれる、夕日の言葉。
刹那。
夕日の足元の闇。
それが、鋭利なカタチをとり小さきモノを貫く。
まるで夕日の意に従う従者のように。夕日の意のままにそのカタチを変えて。
叫び。
それをあげるまもなく、小さきモノは光の粒子となり霧散していく。
その様に、しかし茜は動じない。
降り注ぐ光の粒子。
その中で、茜は笑う。
そして、楽しそうに声を響かせた。
「夕日じゃんッ、如月 夕日!!」
「ははは!! 闇に堕ちちゃったんだ!!」
「なんで!? どうして!? 自分が無能すぎてつらくなっちゃった!?」
答えない、夕日。
「おい、シカトこいてんじゃねぇぞ。無能」
表情を変え、茜は夕日に中指を立てる。
なびく真紅のオーラ。茜の身が赤々と輝き、周囲を赤に染めていく。
その茜を、夕日は見つめる。
〜〜〜
「夕日」
「君の力は癒し」
「だから、その闇に宿る力もまた」
「癒し」
〜〜〜
内に響く、ダークの優しい声。
そして、夕日は意思を表明した。
【癒す】
【赤澤 茜の足。それが身を支えるという苦しみから】
瞬間。
茜はその場に崩れ落ちーー
「……ッ!?」
その顔に焦燥を滲ませたのであった。




