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漆黒の魔法少女  作者: ケイ


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銃弾②

街の上空に、存在しないはずの“高度”が生まれていた。

気圧も。温度も。風速も。

現実の物理法則では説明できない層。


負の感情。それの堆積でできた、第二の空。

そこに、如月夕日は佇んでいた。

漆黒の双翼のカタチをとった闇。それをゆらめかせながら。


「虎森 大河」


独り言のように呟く。

その呟きは冷たく重い。


同時に夕日の瞳に浮かぶ無数の光粒。

それはこの街に存在する、【魔法少女】の数。


その中のひとつ。

琥珀色の光粒。曰く、虎森大河を表す光。

夕日はそれに意思を示さんとした。


刹那。


「言われねぇでも行ってやるよ」


「如月 夕日」


夕日の脳内。

そこに響く、敵意に満ちた声。


そして夕日は感じる。


虎森大河の視線。堕とすという意思が宿った眼差し。

それをはっきりと。


視線を感じた、方向。

夕日はその方向に意識を向ける。

倣い。夕日に寄り添っていた闇もまたそのカタチを変えていく。


堕とされしモノ。

帰る場所なき闇の咆哮。


次第にソレはカタチを為しーー


しかしそれは人の形をしていなかった。


腕の位置にあるのは、折れ曲がった空間そのもの。

脚の代わりに、重力が歪み、周囲の空気が引きずられる。輪郭はあるのに、境界が存在しない。


それは「存在」ではなく。

この第二の空に沈殿した、否定と怨嗟の集合体だった。


夕日の背。

そこで漆黒の闇がゆっくりとその双翼を開く。


ばさり


羽ばたいたはずなのに、音は遅れて現れる。

空間のほうが彼女の動きに追いついていない。


「いっしょに」


「いてあげる」


夕日は言った。

優しく寄り添うに。


その声に応じるように、闇の塊が蠢く。

街で生まれた無数の“後悔”が、形を得て咆哮する。


 ――助けてくれなかった。

 ――間に合わなかった。

 ――どうして私だけ。

 ――返して。


言葉未満の感情が、濁流のように押し寄せる。


だが夕日の表情は変わらない。


慣れている。

これが、自分の居場所だからだ。


「いっしょに」


「寄り添ってあげる」


夕日は片手を持ち上げた。


指先が、空をなぞる。


それだけで。第二の空の“高度”が、さらに一段階、沈んだ。


ぐしゃり、と。


目に見えない圧力が闇を押し潰し、存在だったものがただの感情の澱へと還元されていく。


――その瞬間。


視界の端が、裂けた。


光だ。


この世界に本来属している、正しい物理法則の光。


「見つけた」


少女の声が、真っ直ぐに届く。


次の瞬間。

第二の空が殴られた。


衝撃。

あり得ない現象だった。


この層は、現実から切り離されている。

干渉できるのは、夕日と“同種”の存在だけのはず。


なのに。


琥珀色の閃光が、空間ごと突き破ってきた。


「おまえに会いにきてやったぜ」


現れたのは、一人の少女。


足場などないはずの虚空に、当然のように立っている。重力が、彼女を基準に再定義されていた。


短く結んだ茶髪。

挑むような眼差し。

拳には、現実世界の質量を帯びた琥珀色の光が宿っている。


虎森大河は、笑っていた。


「お前の“逃げ場”ごとぶっ壊しに来てやったぜ」


夕日の瞳が、わずかに細くなる。


ここは拒絶の世界。

誰も来られない場所。

来られるはずがない場所。


それを。


この少女は――力ずくで、登ってきた。


「虎森 大河」


夕日の翼が、静かに持ち上がる。


闇が再び形を取り始める。

今度は防御ではない。

明確な、迎撃の意志。


「潰す」


第二の空が、軋んだ。


現実を背負った魔法少女と。現実を捨てた闇。


本来、交わるはずのない二人の高度。

それがいま、完全に重なろうとしていた。


空が二つに割れる。


戦闘が始まる前から、世界のほうが悲鳴を上げていた。


その中心で。


虎森大河が、撃墜の神秘ーー【銃】を構える。

あの時と同じ笑み。それを浮かべ、如月夕日へと照準を合わせる。


如月夕日が、翼を広げた。

だがその表情は変わらない。

あるのは、揺るぎない復讐の意思のみ。


「ゆるさない」


「はははッ、堕としてやるよ!! 如月夕日ぃ!!」


反響し合う、憎悪と敵意に彩られた声。


同時に踏み込む、二人。


瞬間。


第二の空が決壊し、二人は互いを潰す為にぶつかる。


光と闇。

その決して相容れない色を纏い、世界のことなど意に介さずに。


如月夕日と虎森大河。


光と闇。


世界はただその二人を見つめることしかできなかった。

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