魔法少女⑦
異形の消滅。否、同化。
それにより、重苦しかった空気が澄む。
まるで世界が再び呼吸を始めたかのように。善と為した【共有】が、世界を包み込むようにして。
その中で、白河は小さく息をつく。
胸に手をあて、三つの思いを噛み締めるように。
吹き抜ける、風。
それに揺れる白河の白銀の髪。
その後ろ姿を、瑠璃と子犬は畏れた。
光。
抗うことすら叶わぬ光。
本能的な反応。
根源的な恐怖。
次元の違う光。見ているだけで、浄化されてしまうのではないかと錯覚するようなそんな混じり気のない純白の光。紛うことなき、【魔法少女】。
しかし、夕日は畏れない。
ただじっと、白河優里の背を見つめーー
っと、その瞬間。
「夕日ちゃん」
声が響き、白河の顔が後ろに向けられる。
夕日を仰ぎ見るような格好。そしてその顔は、いつものように柔らかい。
指を鳴らし、服装を元に戻す白河。
着慣れた学校の制服。その姿に、白河はなる。
「朝ごはん。食べた?」
「もしまだなら」
微笑む、白河。
「いっしょにどうかな? お気に入りのカフェ。あるんだけど」
友人に接するような、声音と表情。
そんな白河に、声が降り注ぐ。
「白河 優里」
「見させてもらったよ。君の本心を」
宙に浮かぶ、小さきモノ。
その声音はひどく冷酷。
「どうやら君はこちら側ではないようだ。そして君の中にいるソレもまたこちら側ではない」
「だとすれば」
しかしその言葉の続きを、白河は発する。
睦月。皐月。弥生。その三人を導いていた小さきモノに視線を向け、はっきりと。
「闇。光に仇なす存在。ヨリヤミと同じーー浄化対象。そう言いたいんだよね?」
「あぁ、そうだ」
肯定の意思。
それを示す、小さきモノ。
「だけど、まだ選択肢はある」
「今すぐ。君がそこにいる三つの闇を浄化。或いは消滅させれば浄化対象とはならない。わかっているとは思う。浄化対象になれば、あるとあらゆる手を講じぼくたちは必ず君を浄化或いはーー」
「消す」
無機質な言葉。
こちらの意思など関係ない。そう言わんばかりの声の質。
呼応し、夕日は手のひらをかざす。
小さきモノに。言葉では表現できぬ感情を発露させながら。同時に、夕日の足元に収まっていた闇もまた夕日に応える。
じわりじわりと、闇は夕日を中心に広がっていく。
【癒し】
【視線の先に小さきモノが存在している。ということから】
そしてその夕日に続く、瑠璃と子犬。
「ヤミ」
「あれに。死を与えて」
呟かれる、瑠璃の言葉。
死を与えし闇。それが瑠璃の意思に呼応し、夕日の闇と混じり合う。
「わんッわんッ」
吠え続ける、子犬。
その小さい影の中。そこにも、名状しがたき闇が蠢く。
異様な光景。
光と闇が同じ位置に立つ。という、そんな光景。
それに、宙に浮く小さきモノは揺らぐ。
「確定した」
「白河 優里。君を浄化対象として」
瞬間。
小さきモノは、穿たれ飲み込まれる。
カタチを為した、夕日の闇。
それに一切の猶予も与えられることもなく。一瞬にして。
消えた、小さきモノ。
倣い、白河は身体を反転させる。
そして。
「ありがとう。み、みんな…わたしの為に。夕日ちゃんと、うーん…名も知らぬ女の子と子犬さん。みんな大好き」
感動する、白河。
視線の先では、夕日の陰に隠れる瑠璃と子犬。
その光景に、白河は微笑む。
そしてそんな白河の内の小さきモノの声が響く。
「優里の為じゃないよ。そもそも、彼女たちからしてみれば小さきモノは敵。優里に関係なく、彼女たちは小さきモノに敵意を向けたと思う。でも」
「でも?」
「彼女たちは今まで見てきたヨリヤミとは違う。ということだけはわかる」
「まぁ、いずれにしても。優里は目をつけられた。そしてこのぼくも」
「怒ってる?」
「いいや」
「私のパートナーを外れたくなった?」
「今更それはできない。まっ、最後まで付き合ってあげるよ。どんな結末になろうともね」
そう言い残し、小さきモノの声は止まる。
同時に、夕日はその場から立ち去っていく。
闇を引き連れ、前だけを見据えて。
そして、その後を瑠璃と子犬も追う。
その三つの背。
それを見つめ、白河は声を響かせる。
「また、会おうね」
「その時はみんなで」
白河の温かな声。
それに夕日は答えない。
そんな夕日に、白河はただ静かに笑顔を向けたのであった。
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瞳に神秘を宿し、河川敷での一幕を見たのは虎森大河。
「はい、確定。確定」
「白河 優里は闇ってことで」
そしてその声は、街を見下ろす山の頂上に楽しそうに響いた。
胡座をかいた格好の、虎森。
声は更に響く。
「ついでに如月 夕日の抹消。それも、最優先事項に格上げ間違いなしっと」
それに、木に背を預け腕を組んでいた少女は瞼を開く。
「恵。これで、わたしたち側につく光は増える。そうなれば」
「大河。油断はダメ。撫子さんと茜。その二人を侵食した如月 夕日は、もう普通のヨリヤミじゃない」
「わかってる。わかってる」
頷く、虎森大河。
その頷きに、佐伯恵もまたその表情を固く引き締めたのであった。
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