魔法少女④
如月→皐月。
に名前を変更しました。如月夕日と苗字が被っていたのは、ミスです。
その光景に、残った二人は息を飲む。
大木の側。そこに倒れ込み、皐月は痙攣する。虫の息で全身を貫く激痛に身を悶えさせながら。
「さ、皐月」
「た、たすけ。たすけに」
身を震わせ焦燥する、睦月と弥生。
二人の表情。そこに宿るのは、皐月に対する心配のみ。そしてそれは、闇と対峙するべき魔法少女としては致命的な感情の発露だった。
普通の人であるなら、それは決して責められるモノではない。だが、【魔法少女】であるならーーその甘さは転じて、責められるモノとなりえる。
如月夕日と瑠璃。
その二人の闇から意識を逸らそうとする、睦月と弥生。
刹那。
「二人共」
「君たちは魔法少女なんだ」
「それを理解しているの?」
二人の内。
そこに響く小さきモノの声。
「今、君たちがすべきこと。それは眼下にいる闇を浄化すること」
「皐月の心配。それは後からでもできることだ」
淡々とした声。淡々とした、無機質な声音。
まるで柵の中の動物に語りかけるような。そんな、口答えを許さない雰囲気を纏った口調。
「それとも…君たちは、一人の【死ぬことはない命】のほうが大切だと言うの? あの2つの闇に君たちが無抵抗に侵食されれば、もっとたくさんの命が失われることになるんだよ?」
「で、でも」
「……っ」
二人はその場に立ちすくみ、短き薙刀の柄を握りしめる。
倣い、陰を見せる二人の桃色のオーラ。
そして二人は唇を噛み締め、思いを押し殺し、夕日と瑠璃のほうに向き直った。
そんな二人に、夕日は意思を表明しようとする。
【癒し】
だが、それを瑠璃が遮った。
夕日の前に踏み出し、
「おかあさん」
「瑠璃がやる」
「あの光は、るりがヤる」
瑠璃は声を響かせる。
瑠璃の身。
そこから滲む、闇。
死を内包し、死を与える闇。
それが瑠璃の意思の呼応し、その色を更に深淵へと染め上げていく。
だが、夕日もまた瑠璃の側に身を置く。
そして言葉を発することなく、ただ静かに二人の魔法少女を見据える。
そんな二人に、睦月と弥生は呟く。
「あ、あの顔」
「あれって…わたしたちと同じ学校の」
瑠璃の姿。
それを凝視し、
「「橘 瑠璃」」
呟かれた二人の声。
行方不明になった。そう聞いていた。
原因不明の集団自殺。その後に、忽然と姿を消した生徒が居た。
橘 瑠璃。
いじめられていた。
それはもう凄惨な虐めだったと聞いている。
〜〜〜
「睦月に皐月。それに弥生」
「今からさ。離れのトイレでおもしろいことやるんだけど、見にこない?」
「どう? めちゃくちゃ刺激のあることやるからさ」
放課後。
今にも雨が降りそうな空を窓から見つめていたら、声をかけられた。
橘 瑠璃?
と皐月が聞いたら、彼女たちは頷いた。
その顔はとても楽しそうだった。
三人は行かなかった。
なぜならーー橘 瑠璃のことなど。どうでもよかったから。
自分たちは蚊帳の外。
そう思っていたから。
〜〜〜
睦月と弥生の表情。
そこから迷いが消える。
橘 瑠璃がヨリヤミに侵食された。
だとすれば、自分たちは蚊帳の外ではない。
魔法少女として。蚊帳の中にいる。
呼応し、皐月もまた立ち上がる。
ふらつきながら。その瞳に、桃色の灯火を宿しながら。
「皐月」
「闇を浄化するんだ。二人といっしょに。身体は治してあげたから」
内に響く小さきモノの声。
それに皐月は三度、その手に短き薙刀を握る。
【共有】の神秘。
桃色に包まれた、三人の身。
そして三人は互いの全てを共有する。
息を吸う。
その瞬間、呼吸は一つになる。
胸が上下する感覚。
それが三重に重なり、溶け合い、もはや誰のものか判別できなくなる。心臓の鼓動は三つあるはずなのに、聞こえるのはひとつのリズムだけ。
視界が、重なる。
見下ろす、二人の少女の視界。
大木の裾から敵を捉える視界。
三つの視点が、一瞬の遅れもなく脳裏に流れ込む。
混乱はない。なぜなら、思考もまた共有されているからだ。
「ヤミ。キッて」
現される、瑠璃の意思。
瑠璃のヤミの斬撃。
それが巨大な刃のカタチをとり、三人を襲う。
鎌を振るように。猛烈な横からの突風のカタチをとって。
声に出さずとも、判断は同時に成立する。
一人が身を沈め、二人が跳躍して。
回避は成立。
だがそれは連携ではない。
三人で一つの動きだった。
斬撃が走った瞬間。三人は共有する。
筋肉の張り、骨を伝う衝撃、空気を裂く感覚。それらは「見ている」のではなく、「体験している」。
瑠璃の三度のヤミの斬撃。
それが一人の胸を掠めた――はずだった。
痛みは、三分の一になる。
恐怖も、怒りも、同じように分け合われる。
だから、折れない。誰か一人が怯んでも、残り二人が支えるのではない。そもそも怯みが成立しない。
怒りが生まれれば、それは三倍に膨れ上がる。
覚悟が定まれば、それもまた三倍に研ぎ澄まされる。
三人は、同時に夕日と瑠璃に向かい駆け出す。
風のように。砂埃を巻き上げながら。
全てが三人でひとつ。
速度も。その薙刀を振るう力も。
その全てが。共有される。
思考が重なり、意志が完全に一致した瞬間、三人の攻撃は“自然現象”のように発動する。
夕日と瑠璃の死角。それを的確に狙うようにして。
それはもはや三人の魔法ではない。
共有された存在が放つ、ひとつの奇跡。
だが、その三人の戦意を夕日は削ぐ。
【束縛の闇】
【三人の身体。それを如月 夕日の眼前に】
表明される、侵食された【束縛】の神秘。
呼応し、夕日の闇に青が宿りーー三人を束縛する。
瞬間、三人は夕日の眼前に束縛された。
まるで鎖に縛られた囚人のように。
目を見開く、睦月。皐月。弥生。
同時に、瑠璃は呟いた。
先ほどと同じように、
「ヤミ」
「キッて」
と。その瞳に一切の光を宿すことなく。
はっきりと呟いたのであった。




