表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

魔法少女③

夜が明け、空が白く照らされる。


その中で、夕日と少女は目を覚ます。

二人を包んでいた闇。それが二人の意思に呼応するように溶け、二人と一匹の身を淡い朝焼けの中に置く。


川のせせらぎ。

透き通り、聞く者の心を癒す音色。

しかしその音は三つの心には届かない。


なぜなら、二人と一匹を癒すのは闇。

如月夕日の【癒し】が内包された漆黒の抱擁のみなのだから。


「わんっ」


響く子犬の鳴き声。


「わんわんっ」


響き続ける子犬の鳴き声。

それに夕日は、子犬に問いかける。


「あそびたいの?」


「わんっ」


「そっか。なら」


優しく呟き、夕日は子犬の抱擁を解く。

夕日の抱擁。

それを解かれ、子犬は河川敷を走り回る。

楽しそうに。その光無き瞳に闇を蠢かせながら。


そんな子犬の姿を静かに見守る、夕日。

その表情は無機質。しかし、淡い日に照らされた夕日の顔はどこか和らいでいるように少女の目にはうつっていた。


そしてふと、少女は声を発する。


瑠璃るり


「わたしのなまえ」


夕日の横顔をじっと見つめたまま、瑠璃は呟くように声をこぼす。


「おかあさん。瑠璃はね。たすけられたの」


瑠璃の淡々とした声。

それに夕日は顔を横に向けた。


呼応し、ふわりと夕日の髪が揺れる。

香る闇の匂い。氷の中に咲く花のような、冷たく澄み切ったそんな匂い。


そして、二人は見つめ合う格好になる。

倣い、瑠璃の頬が仄かに桃色に染まる。


「たすけられたの」


「ヤミに。2回も」


瞬きをし、夕日は瑠璃の言葉の続きを待つ。

瑠璃の闇色の瞳。そこから決して目を逸らすことなく。


「いっかいめは」


「瑠璃がおそわれそうになったとき」


瑠璃は紡ぐ。

己のことを。闇に塗り潰された、僅かな記憶を頼りにして。


〜〜〜


腫れあがった頬。

滲む口元の血の跡。


落書きだらけの机。

机の中には虫の死体と画鋲。


みんな、笑っていた。

くすくすと。

先生も見て見ぬふりをしていた。

めんどくさい。そんな顔をして。


その日は雨だった。


みんなが帰った放課後。

人が来ない離れのトイレの中。


いつもわたしに痛いことをしていたみんなが、その日はどこか違っていた。


男子と女子。


おい、脱がそうぜ。

今日の保健体育でならったことがほんとうか。

こいつの身体で試そうぜ。


気づけば、冷たいタイルの上に押し倒された。

下着を脱がされ、女子はわたしの手足を押さえ、男子はわたしの上に覆い被さろうとした。


叫んだ。

叫んで、叫んで。

泣き散らしたよ。


でも、みんなはへらへら笑うだけ。


お願いしたんだ。


たすけて。たすけて。たすけてって。

だれか。この地獄からわたしをたすけてって。


しんでもいい。

たすかるなら、みんなしんでもいいって。

これまでのこと。それをおもいだして、おねがいしたんだ。


そしたらね。


〜〜〜


「黒いヤミがみんなを死なせてくれたの」


「みんな。目から光をなくして…すぐに、トイレから駆け出して…その日のうちに屋上から飛び降りて。死なせてくれたの」


「それでね。瑠璃は逃げたの」


儚げに笑う、瑠璃。

その瑠璃の頬に、夕日は触れた。

冷たい。とても冷たい瑠璃の頬。


「そして、2回目は」


「おかあさんに。お山でごはんをもらったこと」


夕日の手のひら。

それを握りしめ、瑠璃は夕日の冷たさを感じる。


「瑠璃にはね」


「おかあさんも、おとうさんもいないの」


「だから」


「わんっ」


瑠璃の声を遮る、子犬。

いつのまにか、子犬は二人のそばに戻り、その場にお座りをしている。


その子犬に瑠璃は微笑む。

そしてその頭を撫でようとーー


だが、それを。


「朝っぱらから、大物二匹」


「やっぱり狩りは朝早くが鉄則だね」


「恵さんと大河さん。それに、白河 優里。あの三人が来る前に片付ける」


意気揚々とした三つの声が遮った。


夕日と瑠璃。

そして子犬の意識。

それが声の響いた方向に向けられる。


土手の上。

舗装された道の上へと。


果たしてその意識の先に佇んでいたのは、三人の同じような幼い顔をした黒髪の少女。

三人ともその身に纏うのは、白と赤を基調とした巫女装束。しかしそれは祈るための装束ではない。

祓い、斬り、そして――戻れなくなるための巫女装束。


曰く、紛れもない魔法少女のカタチ。

睦月。皐月。弥生。という名の少女だった。


「人が起きる前に片付けるよ」


「人払いの結界があるとはいえ、限界があるからね」


「時間は10分。いい?」


頷き合う、三人。

同時に三人の手に握られる桜色の薙刀。


呼応し、小さきモノの声も三人のうちに響く。


「油断はしないで。こっちのほうが数が多いとはいえ、あのヨリヤミは今までのソレとは」


だが、その声が三人の内で響き終わらぬうちにーー


【癒し】


【目障りな存在。それが視界にうつる苦しみから】


瞬間。


めきッ


「!?」


三人の内の一人、皐月。

その身が闇に捻られ、そのまま夕日の視界から消え去る。


そして、尋常ならざる力をもって、夕日の視界の外にあった大木に勢いよく叩きつけられてしまったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ