魔法少女②
しかしその謝罪は夕日の耳には届かない。
たとえ届いていたとしても、如月夕日は決して大和撫子を許しはしない。
闇が撫子を侵食する音。
その音を聞く夕日の顔に宿るのは、
「カケラもいらない」
「ぜんぶ。たべて」
淡々とした無機質のみ。
そんな夕日の意思に、闇は応える。
撫子の身。それを覆い隠し、闇は喰らう。
まるで腹を空かせた獣のように。その本能を剥き出しにしながら。
呼応し、夕日は感じる。
子犬の身がほんのり温かくなり、少しだけその身が大きくなったのを。
そんな子犬の頭を優しく撫で、身を翻す夕日。
同時に夕日は声を聞いた。
「如月 夕日」
「君はいったいなにを為そうとする」
「その闇でこの世界をどうしたいんだ?」
撫子の身。
そこから抜け出て宙に浮き、夕日へと問いかける光の球体の形状をとった小さきモノ。
「ヨリヤミを束ね。闇の中心に立ち。【如月夕日】という存在はなにをーー」
「うるさい」
くだらない問い。くだらなく聞くに値しない言葉。
それを一言で、吐き捨てるように遮った夕日。そして顔すら向けず、夕日は小さきモノを闇に包む。
同時にその足を踏み出し、何事もなかったのように、夕日は淡い光と夜の静寂に包まれた公園を後にしたのであった。
そんな夕日の姿。
それを草むらの陰から見つめる少女がいた。
ぎゅっと胸に手を当て、少女は呟く。
「すごい、すごい」
「みんなもすごいと思うよね」
「さすが」
「わたしたちのおかあさんだ」
少女の声。
それに少女が纏うヤミもまた、その色を更に深淵へと落とす。まるで少女に同調するように。主に仕える従者を思わせる揺らめきをもって。
「ついていく」
「わたしは一生、おかあさんに」
草むらから身を出し、少女は夕日の後を追う。
その表情に安堵の色を滲ませ、如月夕日を自らの心の拠り所としてーーその顔に僅かな微笑みを浮かべながら。
〜〜〜
「如月夕日」
「及び、赤澤 茜。大和撫子について」
「現在。如月家の件について行方をくらませているのはこの三人」
「大和撫子に至っては遺体が消えるという不可思議な現象も発生」
「大和家からこちらへの圧力は強く、情報をよこせと言ってきている」
警察関係者の声。
それが会議室に響く。
そしてその会議室に集まった者たちの顔。
それは皆一様に焦燥に満ち、深刻な表情そのものだった。
〜〜〜
「そこにいるのはわかってる」
河川敷の暗い橋の下。
そこに夕日の声が響く。
その声に、少女は身を現す。
背の高い草むらから、ヤミを纏い自分の胸の前に手をあてて。
「いっしょにいたいの?」
「わたしと」
「うん。いたい」
少女の憧れに満ちた声と仕草。
それに夕日は応える。
その場にゆっくりと三角座りをしーー
「いいよ」
短く淡々とした夕日の声。
呼応し、少女は小走りで夕日のそばに駆け寄る。
そして、嬉しそうに腰を下ろし夕日と同じ格好をとる。
肩をくっつけ寄り添う二人。
その二人を夕日の闇は包む。
【癒す】
【二人の身。それが疲れているという苦しみから】
優しく二人を抱擁するように、闇は二人の身を柔らかく包み込む。
それは、二人にとってのしばしの休息を意味していた。
〜〜〜




