ともだち③
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明滅する街灯の光。
その下に佇む一人の少女が居た。
髪はふんわりとした雪のように白く、顔立ちもまた幼い。瞳に色はなく、あるのは無機質。見た目だけを見れば、儚げでどこか神秘的な雰囲気を醸す少女。
しかし、その身に纏った純白の装束とその身から漏れる言い知れぬオーラ。それが少女の異様さを物語っている。
「花苗。この街が次の舞台だよ」
「この街は、花苗が居た街よりヨリヤミで満ちている」
「だから花苗。"ここ"では君は必要とされる」
「"ここ"では君は救世主になれる」
花苗と呼ばれた少女。
その少女は、内から響く声に小さく頷く。
そして問いかけた。
「他の魔法少女は?」
更に続けられる、問いかけ。
「みんなも花苗を必要としてくれる?」
それに花苗の中の小さきモノは答えた。
花苗が求める答え。それをはっきりと。
「勿論。みんなも花苗を必要としてくれる。みんな、みんな。必要としてくれるよ」
その言葉に花苗は微笑む。
そして、桜木花苗は街灯の光の外へとその足を踏み出したのであった。
〜〜〜
淡い月光に照らされた路地裏。
そこになにかに怯えた声が響く。
「夕日さん。夕日。如月、夕日」
きらさぎ ゆうひ。
脳裏に浮かぶその名前。拳をふりあげ、自分に死を与え続けた存在の名。
それに、大和 撫子は苛まれ続けていた。
「夕日。ゆうひ。如月 夕日」
虚な瞳を晒し、壊れたテープレコーダーのように如月夕日の名を呟いて。
「撫子」
「君は死ぬことはない」
「幸いだったよ。君の身体。それが如月夕日の闇に侵食されなかったことが」
内から響く小さきモノの声。
「君にはまだ使命がある」
「ヨリヤミを浄化する。という使命が」
頭を抱え、撫子は震える。
首をへし折られ、夕日の拳により顔を無くしたはずの撫子。
だが今。大和撫子の身は神秘により元に戻り、死を与えられたという記憶のみが鮮明に残っている状態だった。
「さぁ、撫子」
「その身が闇に侵食される前に、もっと。もっとーー魔法少女として光の為に」
響き続ける、小さきモノの声。
「……っ」
それに撫子は頷くことしかできなかった。
まるで、それが【使命】であるかのように。
他の意思表示。それを示すことができないように。
〜〜〜
静かな公園。
その噴水の側に置かれたベンチ。
そこに腰を下ろし、夕日は寄りつく様々なヨリヤミたちと共に空を見つめていた。
鳥のカタチをした闇。
子猫のカタチをした闇。
魚のカタチをした闇。
それは、蔓延る負の感情がカタチをとったモノ。
そしてその中には、人の妬みや憎悪といった負の感情がカタチをとったモノもよりついていた。
「ねぇ、どうしてわたしはあの人に選ばれなかったのかな?」
失恋。
「どうして。俺じゃなくあいつが」
出世。
「いたかったな。苦しかったな」
いじめ。
「悔しい。悲しい。心が痛い」
善意を弄ばれた。
夕日の中。
そこに流れこむ冷たく重い思いの奔流。
そんな声にならぬ声を夕日は受け止め続ける。
【癒し】
その闇を受け皿として。
夕日を照らす月の光。
その中で夕日は静かに子犬の亡骸を抱きしめる。
だが、そこに。
「夕日ちゃん」
「また会えたね」
人懐っこい声が響き、夕日は前に向き直った。
同時に夕日は声の主が誰であるかを知る。
「やっほー、夕日ちゃん」
「わたし白河優里だよ。って、昨日の今日だから忘れるわけないか」
健気に、白河は夕日の元へと歩み寄る。
ゆっくりと、まるで夕日の心に寄り添うかのように。その顔に柔らかい笑みを浮かべながら。
白河の身を包むのはどこかの学校の可愛いらしい制服。あの時の魔法少女のソレとは違う、神秘の欠片もないただの服装だった。
白河のオーラ。
それを畏れ、夕日に寄りついていたヨリヤミたちは夕日の側から離れていく。
天敵に出会ったモノのように。忌避という本能をもって。
白河はそれについ謝ってしまう。
「ごめんね。闇のみんな」
呼応し、白河の内に響く声。
「優里」
「油断は禁物だよ。いくら君が如月夕日に好意を抱いていたとしても……如月夕日が君に好意を抱いているとは限らない」
「元来、光と闇は相容れない存在なんだから」
「わかってるって。でも、わたしは夕日ちゃんとお友達になりたいの」
小さきモノの声。
それに答える、白河。
そして。
「よいしょっと」
夕日の隣。
そこに腰を下ろす、白河。
そしてーー
「夕日ちゃん」
「歳いくつ?」
「好きな食べ物は?」
「嫌いな食べ物は?」
「趣味とかあったりする?」
「好きな本は?」
「スポーツとかやったりするの?」
「好きなタイプは?」
矢継ぎ早に夕日に質問を投げかける、白河。
それに小さきモノは声を挟もうとした。
「優里」
「闇から答えが返ってくるわけ」
ないじゃないか。
だが、それを夕日の仕草が遮った。
前を向いたまま、右手で人差し指と中指を順番に立てる夕日。
それに白河はきらっと瞳を輝かせ、声を紡ぐ。
「1、2」
「12歳ってこと?」
小さく頷く、夕日。
白河は感動し、勢い余って夕日を抱きしめてしまう。
「夕日ちゃん」
「答えてくれてありがとう」
「わたし。とっても嬉しいよ」
久しぶりに感じる、人の温かさ。
それに夕日はしかし、表情を変えない。
倣い。
「驚いた」
「闇が光の問いに答えるなんて」
白河の中。
そこで小さきモノは僅かに動揺してしまう。
「夕日ちゃん」
「わたしは貴女を信じるよ。貴女がなぜ、闇に堕ちてしまったのか。わたしは知りたい」
言い放ち、夕日を抱擁から解く白河。
同時にその場に立ち上がり、一歩二歩と前に進み、白河は更に言葉を続ける。
「その子犬が死んじゃったこと」
「きっとそれが原因だと思う」
「それに貴女を狙っていたあの魔法少女」
「うん。わたしの中でなにかが繋がりそうだよ」
頷く、白河。
「夕日ちゃん、また会いにくるよ。その時はまたひとつだけ。わたしのお友だち質問に答えてくれると嬉しいな」
夕日を仰ぎ見、白河は微笑む。
そして、嬉しそうにその場から駆け出していく、白河優里。
夕日は、その背を見つめーー
呼応し、夕日は感じる。
抱きしめた子犬の亡骸。そこから聞こえるはずのない音を。冷たい命の鼓動をはっきりと感じる。
そして。
「……っ」
むくりと。
闇に包まれた子犬はその顔をあげたのであった。




