ともだち②
日が落ち、夕焼けに染まった森の中。
ひんやりとした風。
それに頬を撫でられ、夕日は瞼を開けた。
視界に広がる橙色の景色。呼応し、木々の葉がざわめき夕日の耳をくすぐる。
そのざわめきに混じり声が響く。
「たすけて」
ちいさなちいさな声。
耳を澄まさないと聞こえない声。
立ち上がる、夕日。
その瞳に色は無く、その顔にもまた色はない。
そしてその夕日の足元には二人の亡骸。
男と女だったモノの死体が転がっている。
血は流れていない。代わりに二人を包むのは夕日の闇。【侵食】の意思を示す闇の広がり。
「たすけて」
再び響く声。
「おなか。へった」
「その。ごはん」
「わたしにちょう、だい」
幼い声。
その声に夕日の足が前に踏み出される。
倣い。闇もまた夕日の後に続く。
二歩。三歩。
前に進み、夕日は足を止めた。
感じる気配。
感じる、自分と同じ気配。
冷たく重い闇の気配。
そして夕日は気配の感じる方向に視線を固定する。
影のような闇。それが滲む草むらに向けて。
がさっ。
と音を鳴らし、その声の主は草むらから姿を現す。
夕日は見る。
夕日に纏われた闇。それもまた夕日の意思に呼応し、その矛先をその存在へと向ける。
闇を帯びた、夕日の眼差し。
その先に佇んでいたのはーー
「……っ」
微かに震えお腹を抑える一人の少女。
しかしその目に光は無い。あるのは夕日と同じ闇の色。顔に血色は無く、その髪もぼさぼさ。そして顔には痛々しい痣が滲み、手足は木の枝のように細い。
足は裸足。そしてその身に纏うのは、夕日と同じ漆黒のローブ。
自分と同じ匂い。
それを感じ、夕日はじっと少女を見つめる。
そして。
「たべても。いいよ」
夕日の言葉。
それに、少女は僅かに瞳を輝かせた。
そして小走りで、男と女の亡骸の元に駆け寄る少女。
そして。
「あり、がとう」と手を合わせ、自らの闇に二つの亡骸を食べさせていく。
その光景。
それを夕日は見届けることはしない。
ただ静かに身を翻し、夕日はその場を後にした。
背後から響く咀嚼音。
その音に一切の興味も抱くこともなく、ただその足を前へ前へと進めていくのみ。
闇を引き連れ、その顔に無を張り付けたまま、淡々と。まるでここで為すべきことはもうない。といわんばかりに。
〜〜〜
どれくらい時間が経ったのであろう。
亡骸を食べ尽くし、少女はその場に胡座をかく。
夜の空。それを見つめ、少女は呟く。
「ヤミ。やさしいヤミ」
「ヨリヤミのおかあさん」
「おかあさん。おかあさん」
「おかあさんがだっこしていた、あのコ」
「もうすぐ。"オきる"」
「わたしも。おかあさんといっしょにいたい」
染み渡る少女の声。
それはどこまでも透き通り、そしてどこまでも冷たく儚げだった。
立ち上がる、少女。
そしてその少女もまたその足を前へと進めていったのであった。
まるで夕日の後を追うように。ぎこちない足取りをもってーー。
〜〜〜
「くそッ、くそ!!」
ガンッ
と自室の壁を蹴り、苛立ちをぶつける虎森。
その虎森に、小さきモノの声がかかる。
内側から。虎森を悟すように。
「大河。落ち着いて」
「んなことできねぇっだろ!!」
瞬間。
「大河ッ、うるさいわよ!!」
階下から響く親の声。
それに虎森は舌打ちをする。
「あんた今日も学校に行かなかったでしょ!? どこに行ってたの!?」
「関係ねぇだろ!!」
「関係なくーーッ」
「黙れ」
呟く、虎森。
【神秘】
【親を黙らせる】
魔法少女の力。
それを使い、虎森は強制的に親を黙らせる。
静まり返った室内。
そこで虎森は苛立ちを隠さず、腕を組む。
そして吐き捨てた。
「おい。如月夕日を庇ったアレはなんだ? 目的はなんだ? なぜ、闇を庇った!?」
応える小さきモノ。
「あの少女は白河優里。目的はわからない。あの行為。あれが闇を庇ったと断定はできない。闇ではなく如月夕日に興味をもったのかもしれない」
「くそっ。アレが如月夕日のそばに居たら迂闊に手は出せねぇだろ。わかるんだよッ、あいつはわたしよりつえぇってことが!!」
唇を噛み締める、虎森。
その虎森に小さきモノは答える。
「大丈夫だよ。もし、白河優里が闇側だと断定できれば」
「やりようはいくらでもある」
含みをもたせた小さきモノの声。
それにしかし、虎森の不満に滲む表情は緩むことはないのであった。
〜〜〜
夕日の元。
そこに引き寄せられる、ヨリヤミたち。
夕日が一歩歩く度。
様々な形をしたヨリヤミが夕日に縋ろうとした。
まるで母に縋る子のように。
まるで、母に助けを求める子どものように。
如月夕日。
その存在。それはもはや、ヨリヤミを超越したナニかになろうとしていた。
〜〜〜




