ともだち①
日の当たらない、森の中。
そこにある一本の木の側に、夕日は座っていた。
自らの周囲に蠢く闇。その漆黒に優しく、まるで包みこまれるように抱擁されながら。
"「私、夕日ちゃんとは友だちになれる気がするの」"
闇に侵食された夕日の内に響く、白河優里の温かな言葉。
眩しい笑顔。
それをこちらに向けてくれた、白河優里。
眩しすぎる光。眩しすぎる--自分が憧れていたはずの魔法少女の姿。
「ともだち」
もう口にすることなどない。そう思っていたはずの言葉。その言葉を、夕日はぽつりとこぼす。
〜〜〜
「友だち。わたしとあなたは友だち!!」
「わんわん!!」
「あははは。くすぐったいよ」
夕焼けに染まった橋の下。
そこで独りぼっちの一人と一匹は寄り添い合っていた。
親に捨てられた子犬と、みんなに見捨てられた如月夕日。その一人と一匹はずっと【ともだち】だと、夕日は思っていた。
痣だらけで涙の跡が残った幼い顔。
そこに精一杯の笑顔を浮かべ、子犬をぎゅっと抱きしめて。
〜〜〜
夕日に抱えられた子犬の亡骸。
その亡骸に夕日は声をこぼす。
「ともだち」
「"わたしたち"はともだち」
わたしたち。
今までそこに込められていたのは、子犬と夕日だけ。
だが今は--
「また、あいたいな」
白河優里の面影。
それを思い浮かべる、夕日。
瞳は未だ闇に埋もれ漆黒。
しかしそこには芽生えようとしていた。仄かな光。それが確かに。
夕日は空を見つめる。
葉がゆらめき、日の光が揺らぐ。
日に温められた風。
それが夕日の髪を揺らす。
夕日は子犬を抱きしめ、瞼を閉じる。
白河優里の優しい面影。
それを思い出し、その仄かな温かさに身を委ねようとした。
だが、それを。
「夕日」
「誰かくるよ」
夕日の中。そこにダークの優しい声が響く。
瞼を開ける、夕日。
そして夕日は、前を見る。
双眸に闇を揺らし、無機質な表情をその顔にはりつけながら。
果たして、そんな夕日の視線の先に現れたのは。
「如月 夕日。視認しました」
「数は一人。仲間は居ないようです」
黒に身を包んだ黒髪の二人の男女。
懐に夕日の写真をしまい、二人はその瞳に冷酷な光を宿す。
意思を表明する、夕日。
【癒し】
【如月夕日があの二人を知らぬことから】
呼応し、夕日の中に流れ込む二人の素性。
大和家からの依頼。
如月夕日の抹消。
大和撫子殺害への報復。
異能対応。
羅列される二人の情報。
だが夕日の表情は変わらない。
立ち上がり、夕日は二人を見据える。
そして、声を発した。
「ともだちに」
「夕日はまた。会いたい」
「だから」
白河優里の笑顔。
それを糧に夕日は闇に広げる。
己の背後に。大きく、まるで翼を広げるように。
その姿を二人は見つめる。
表情を変えず、淡々と声をこぼしながら。
「友だち、か」
「化け物のくせに」
黒の革手袋をつける、二人。
慣れた手つき。落ち着いたオーラ。
それは二人が多くの異能対応の場数を踏んでいることを表している。
「さっさと片付けるぞ」
「了解」
言葉を交わし、二人は駆け出す。
だが二人は知らない。
如月夕日という存在。それはもはや、二人の知る異能とは比較にならないほどのモノだということ。それを二人は微塵の知らなかったのであった。
〜〜〜
校舎の屋上。そこで寝転がり青空を見つめる一人の少女。名は白河優里。この街の魔法少女の一人にして、如月夕日とつながりをもった一人。
「〜〜♪」
響く、鼻歌。
その顔はどこか楽しそう。
そんな白河に声がかかる。
「優里」
「どうして如月夕日を消さなかったの?」
「あの闇を放置すれば、大変なことになる」
「君の力があれば簡単なことだと思うのだけど」
内に響く小さきモノの声
だがそれを、白河は聞かない。
「静かにして」
短く答え、白河は更に続けた。
「わたしね、夕日ちゃんのこと気に入っちゃったんだ。かわいいし。友だちになりたいし。それに」
目を細める、白河。
「夕日ちゃんはまだ、もっていると思うんだ」
「もっている? なにをもっているの?」
小さきモノは問う。
白河は答えた。
「魔法少女に対する憧れを」
続ける、白河。
「そうじゃないと、あの時。わたしに攻撃してきたと思うんだ。本当に魔法少女全部が嫌いで憎かったとしたら……止まらないと思うの」
「だけど、夕日ちゃんは止まった」
身を起こし、関節を伸ばし--
「だからね。わたし、夕日ちゃんのこと信じてみようと思うんだ。信じて信じて。敵意とか殺意とか嘲笑とかを向けないで信じてあげることにする」
そう言い切り。
白河は夕日の姿を思い浮かべ、温かく微笑んだのであった。
〜〜〜
風が鳴く。
木々がざわめく。
時にして僅か10分。
夕日は、二人をこの世界から抹消した。
死というカタチをもって。
二人の亡骸。
その上に座る、如月 夕日。
表情は無機質で頬には返り血。
だが、夕日の瞳には宿っていた。
未だ闇は濃く深淵。
しかしその中に、ほんの僅かな光が夕日自身も気づかぬほどに宿っているのであった。
〜〜〜




