虎森 大河②
未だ感じる殺気。
それに白河は再び前を見た。
白銀の揺らぐ双眸。
それをもって、白河は虎森大河を見据える。
じっと。己の視線に揺らぎなき意思を宿しながらーー。
〜〜〜
「なに。あいつ」
「なに、なんなの。あいつ」
「わたしの神秘を込めた弾。き、如月夕日を撃ち抜くはずの弾ぁ!! それを、それを」
「くそッ、くそっ!!」
片膝をついた狙撃姿勢。
それを解き、虎森は悔しさを露わにする。
虎森の視線の先。
およそ数キロ先の寂れたビルの屋上。そこに光に包まれて現れーー銃弾を握りしめた白銀のオーラを纏いし存在に対して。
「ねぇッ!! あれッ、なに!?」
荒々しく。
虎森は内に宿る小さきモノに問いかけた。
それに小さきモノは答える。
「白河優里。君と同じ魔法少女さ」
「だよね!! アレッ、闇じゃないよね!? わたしと同じ光だよね!? じゃあッ、どうして如月夕日を庇うのさ!!」
「今はなんとも。なにしろ情報が少なすぎる」
小さきモノの返答。
それに虎森は怒りに任せ応えようとした。
だが、その刹那。
こちらを"見据える"、白河優里の瞳。
それに虎森は畏怖を覚え、その場から立ち去っていく。
「……っ」
腑に落ちない。
そんな表情をその顔にたたえながら。
〜〜〜
瞬間。
夕日は感じる。
こちらをミていた、虎森 大河の眼差し。
それが外れ、狙われている。という感覚が消え去っていくのを。
倣い。
夕日は、再びこちらを仰ぎ見たその存在を見る。
降り注ぐ日の光。それに照らされた白河優里。
その姿を一言表すとーー白銀。
引き締まった体躯に、意思の強さが滲み出る瞳。
髪は銀色。整った大人びた顔立ち。そして、その身から醸し出されるオーラ。それは明らかに他の魔法少女とは一線を画していた。
「優里。闇だ。今、優里が見ている存在。それがーー」
「すこし黙って」
内に響く小さきモノの声。
それに白河は答える。微かに怒気を孕んだ呟き。それをもって。だが、夕日を見る目はそれとは対照的に柔らかい。
「貴女は、闇?」
「それとも、光?」
響く白河の問いかけ。
「それとも答えたくない?」
にこり。
と微笑む、白河。
その顔に敵意は欠片もない。あるのは、【如月夕日】を知りたいという純粋な思いのみ。
夕日は答えようとした。
白河の眼差し。そこにナニかを感じながら。
じっと、じっと。
白河 優里を見つめーー
「わたしは」
刹那。
「問答なんて不要だよ、優里。その存在の名前は如月夕日。既に二人の魔法少女と二人の人間を侵食した紛れもない闇」
「魔法少女の使命。それは闇を浄化すること」
「だとすれば、白河優里。君のすべきことは闇との問答じゃない」
「すべきことは」
「浄化だ」
小さきモノの声。
それが鮮明に響く。はっきりと夕日の耳にも聞こえる程に。
白河の側に浮遊する小さきモノ。
そして、小さきモノははじめからそこに居たかのような雰囲気を醸す。
「ほら、優里。はやくその闇を」
「ねぇ」
夕日に微笑んだまま、白河は小さきモノに対し言葉を紡ぐ。
「わたし。黙っててって言ったよね?」
「でも、優里」
「黙ってて。って言ったよね」
白河の声音が変わる。
顔は笑っている。だが、その目は笑っていない。
銃弾を受け止めた手のひら。
それを開き、パラパラとその残骸を落とす白河。
「今はわたしの"時間"」
「わたしは夕日ちゃんとお話したいの」
「だから静かにしてて」
三度。小さきモノに向け響いた白河の声。
応えるように、小さきモノはその姿を白河の側から消失させる。白河優里の意思。それに従うようにして。
「よし。夕日ちゃん」
「これでお話しできるね」
「改めまして。わたしは、白河 優里。貴女は如月 夕日…でよかったかな?」
敵意なき笑顔。
呼応し、揺れる白銀の髪の毛。
紛うことなき光。汚れをしらない純白のオーラ。
それに、夕日の闇は僅かに震える。
至高の餌を見つけた捕食者。それが身震いするかのように。しかし、夕日の意思が鎖となり闇はその本能を見せることはない。
言葉を続ける、白河。
「ふふふ。まだ、わたしとお話ししたくない?」
「だよね。だってわたしたち初対面だもんね。ならまた。日を改めてってことでもいいよ。わたし、夕日ちゃんとは友だちになれる気がするの」
「わたし。いつでもこの街に居るから」
「じゃあ、ばいばい」
屈託なく笑って手を振り、白河は夕日の前から飛び降り、白い光に包まれビルの下へと舞い降りる。
そして横たわる少女の亡骸を抱え、夕日にウインクをし、白河はその場から立ち去っていく。
その白河優里の姿。
それを見つめ、夕日もまたその場から身を翻す。
闇を引き連れ、
「とも。だち」
無機質にその言葉を胸中で呟きながら。




