虎森 大河①
しかし、夕日は感じる。
意思を表明した己の闇。
それを通じ、虎森大河の【神秘】が未だ消えないということを。
飛び散る、血肉。
響く肉を裂く音。
広がる血溜まり。
夕日の眼下。そこで繰り広げられる闇による蹂躙。
そして、それを見つめる夕日の瞳に宿るは曇りなき闇の蠢き。
「ぁ…っ……ァ…ッ」
声にならぬ悲鳴。
それを漏らし、少女は忌避を図ろうとした。
目の前に広がる光景。
先ほどまで自分を殺そうとしていた存在。それが闇に蹂躙される様。
その理解の追いつかない光景。そこから、逃れるようにして。
力の入らぬ足。
そこに力を込め、飛び散る血で頬を汚しーー
だが、そこに。
「逃がさない」
「闇は一匹残らず」
血肉が飛び散る音。
それに混じり、無機質な声が響く。
その声。それはまさしく、先ほどまで響いていた虎森大河の声。そのもの。
顔から生気を失せさせ、頭を抱え、少女は周囲を見渡す。
まるで捕食者に怯える被捕食者のように。小刻みにその身を震わせながら。
「ははは」
「闇のクセに怯えてるの?」
「闇のクセに。闇のクセに」
「見て見て、夕日ちゃん。夕日ちゃんと同じ闇が右往左往してるよ」
「ほら、助けてあげないと」
響き続ける嘲りの声。
だが、夕日の表情は変わらない。
ただ静かに顔をあげ、闇に彩られた視線を前に固定するのみ。
遠くに聳える山。そのうっすらと見える青々とした山肌に向けて。
「あれ、夕日ちゃん」
「もしかして」
「ワタシの姿」
夕日の眼差し。
それに虎森は応える。
「ミえてるの?」
その声の余韻。
それが消えぬ内に音が空気を切り裂く。
パンッ
という乾いた音。
それが鮮明に。
呼応し、少女の頭から飛び散った鮮血。同時に少女の身体がその場に崩れ落ちる。
まるで狩人に撃ち抜かれた獲物のように。
そして再び響く声。
「命中、命中」
「ははは。狙撃成功」
「やっぱり、楽しいな」
「こうやって闇を狩るのは」
「こうやってわたしの【囮】を出して闇を狩るのはーータノシイな」
虎森の嘲りの声。
虎森 大河。
その神秘は、【撃墜】
あらゆる闇を撃ち堕とす神秘。
〜〜〜
「あらゆる闇を撃ち墜とす」
「これがわたしの神秘」
獣の形をしたヨリヤミ。
皆の前でその頭を撃ち抜き、虎森は微笑んでいた。
「これからよろしくね」
「一人じゃ効率よくヨリヤミ狩りができないからさ」
「見て、この目。遠いところからでもヨリヤミを見つけることができるんだ。それにわたしそっくりの囮も一人だけど出せるんだ」
夕闇を背にし、琥珀色の瞳を輝かせ、くるくると銃のようなモノを回していた虎森。
その姿。それは、どこか冷徹な狩人のようでどこか寂しそうだった。
〜〜〜
「さて、と」
「次は夕日ちゃんだね」
「今度はもっと神秘を込めるから」
「防げないかもね」
夕日の脳内。
そこに響き続ける声。
しかし夕日は微動だにせず、二歩三歩と後ろに下がる。
【癒す】
【銃弾に撃ち抜かれるという苦しみから】
夕日の身。
闇はその小さき身を包む。
倣い、夕日の内に響く虎森の嗤い。
「はははッ、ははは!! じゃあねッ、夕日ちゃん!!」
その嗤い。
それと同時に、三度、音が空気を切り裂く。
だがその神秘を遮る声。
「待って」
夕日の眼前。
そこに現れ、【撃墜】の神秘の宿った銃弾を握りしめる一人の少女。
眼下に横たわる少女の亡骸。
それに唇を噛み締め、少女は呟く。
「なにこれ、なにこれ? どうして人が死んでるの?」
「う、撃たれた跡がある。なんで、どうして」
そして少女は夕日を仰ぎ見る。
その眼差し。そこに込められているのは、夕日に対する敵意ではない。
込められているのは、
「ヤッたのって」
「この銃弾を撃った魔法少女だよね」
混じり気のない正義。
魔法少女ーー白河 優里の揺らぎない信念の思いだった。




