ヨリヤミ④
だが、大和 撫子は未だそこに立っている。
剣のカタチをした闇。それに、腹を貫かれてもなおその顔には微笑みが刻まれていた。
そして、響くは声。
「夕日さん。貴女のその攻撃。魔法少女の頃より、強く。そして思いがこもっていますわね」
「ふふふ。茜さんが貴女にやられた訳。それがよくわかりましたわ」
どこか夕日を褒めているかのよう雰囲気。それを纏った撫子の声音。だが、撫子の瞳に宿る青の光に揺らめきは一切ない。闇に対する敵意。その思いは決して揺らぐことはない。
雲に隠れた月。二人の姿。それが微かな闇の帷に覆われる。
交わる二人の視線。
闇を帯びた夕日と、青を帯びた撫子の視線。
「かえせ。かえせ。かえせ」
紡がれる夕日の無機質な声。
呼応し、闇は再び夕日の思いに応えていく。
【癒す】
【大和 撫子。その存在を貫くモノが足りないという苦しみから】
夕日の意思の表明。
倣い。闇は三度、カタチを変え無数の貫くモノへとカタチを変えていく。剣。槍。刀。短刀。貫くことができるモノへと、その形状を。
だが、それに撫子は動じない。
自らの周囲。そこに展開された闇色の武器を目で追いーー
「どうぞ、夕日さん」
「その闇でいくらでもわたしを」
「【殺してください】」
見開かれる、撫子の目。
そこに瞬くは、【束縛】の力。
曰く。
対象の意思。
それを自らに束縛し、永久に執着させる力。
青の光に抱擁され、嗤う撫子。
撫子は次々と貫かれていく。
【束縛】。その力を、闇の武器に付与して。
だが、その身は倒れない。
ぐちゃっ
はじめに腹に刺さった闇色の剣。
それ抜き、撫子はそれを振り払う。飛び散るはずの血は無い。滴るはずの血も、ない。
それはまるで死という概念すらも束縛しそこに立つ、青の魔法少女そのもの。
だが、撫子は知らなかった。
今、己の眼下に佇む存在もまた如月 夕日という名のバケモノだということを。
めきッ
夕日の小さき身。その中に蠢く闇。
そして夕日の足元に広がる漆黒の侵食。
ころせ。ころせ。ころせ。
なんどでもころしてやれ。
夕日の内。
そこに響く己の声。
夕日の瞳が更に濃く染まる。
闇に。漆黒に。そして、殺意に。
闇を帯びた小さな両手。
それをもって顔を覆い、夕日は撫子を見る。
指の隙間から。
色を無くした眼差しをのぞかせて。
「夕日さん。なんですか、ソレ?」
手に握る闇の剣。
それを投げ捨て、忌々しげに吐き捨てる撫子。
「そんな目で。わたしを見ないでいただけないかしら? 闇に染まったその眼差しで……わたしを、見るな」
撫子の声音。
それが変わる。
ふわりと。
羽のようにの電柱の上から舞い降りる、撫子。
そして、撫子は間髪を入れずに夕日へと接近する。
【束縛】
【如月 夕日との距離を】
夕日との距離。
それを束縛し、撫子は夕日の眼前に立つ。
そして、声をかける。
淡々と。無機質に。
「夕日さん。お返ししますわ」
「貴方の武器を」
全身に突き刺さった闇色の武器。
その中より一本を抜く、撫子。
「ふふふ。闇の貴女はどんなモノが流れるのでしょうか? 紅い血? 黒の血? それとも、わたしと同じでなにも流れないのかしら?」
独り問いかけ、撫子は夕日の身に闇色の短剣を突き刺す。
小さな夕日の首元。そこへと縦に深く深く。まるで、果実に刃を突き立てるようにして。
刹那。
「癒しの、ヤミ」
染み渡る、夕日の声。
【癒す】
【如月 夕日の命を】
【癒す】
【如月 夕日が突き刺されるという苦しみから】
ごきっめきっ
刺された短剣。
それが夕日の中に吸収されていく。
それにしかし、撫子の笑みは崩れない。
「あらあら。一本では足りなかったみたいですわね。ならーー」
ぐちゃッ
もう一本。次は闇の剣を自らの身から抜き、それを夕日の腹に躊躇いなく突き刺す撫子。
だが、夕日はそれすらも吸収していく。
僅かに撫子の表情が変わる。
如月 夕日の闇。
その性質に、撫子は気づく。
いや気づいてしまう。
癒しの闇。
夕日の口から漏れたその言葉。
癒し。癒し。癒し。
「成程」
「突き刺されるという行為そのものから、貴女は癒されたのですね」
紡がれた、撫子の言葉。
そしてその声の余韻が消える前に、撫子の首は夕日の手に掴まれる。
闇を帯びた小さな両の手のひらに。尋常ならざる力をもって。
ころせ。ころせ。ころしつづけろ。
みずから、死を選びたくなるまで。
反響し続ける、暗く冷たい己の声。
撫子を押し倒し、夕日は撫子の首を締め続けた。
馬乗りになり、その顔に無を宿しながら。
「……っ…ッ」
その光景。
それは死を与え続ける闇と、死を与え続けられる光ーーそのものだった。




