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はじまり

薄暗い河川敷。

人払いの結界が張られたそこに、声が響く。


「夕日。あんたって、魔法少女じゃなくて無能少女ね」


「えっ?」


「だから。魔法少女じゃなくて無能少女。何度も言わせないでもらえる?」


怒りを押し殺した声と、突き刺さる冷徹な眼差し。

それを受け、魔法少女ーー如月 夕日は胸をぎゅっと抑え唇を噛み締めた。


一戦を終え、いつもなら皆で労を労う時間。

それが今日、この日は全く違っていた。


闇の残滓。

その消滅を見届け、夕日を除く魔法少女たちはなぜか夕日を取り囲み、怪訝な表情を浮かべている。


「なにその顔? その顔をしたいのはこっちだっての。無能少女さん」


「む、のう? 無能。少女」


赤髪の魔法少女ーー赤澤 茜。

その口から響いた言葉。

それを反芻し、夕日の瞳から一筋の涙がこぼれおちる。


その夕日に、次々と声が飛ぶ。


「夕日ちゃん。茜ちゃんの言うとおりよ。夕日ちゃんは、わたしたちが敵と戦っている時……ずっと杖を掲げて立っているだけ」


声音は柔らかい。

しかしその表情は茜と同じように怒りを押し殺しているような顔。

黒髪でお淑やかな見た目。みんなのお姉さん的な立ち位置の少女。名を大和 撫子という。


「そうそう。撫子さんのおっしゃるとおり。夕日はほんとになにもしてないよね。いつもステッキの先端から光を放っているだけ。あの光。なんの意味があるの? ねぇ。ねぇ。ねぇ」


失意の夕日。

その姿に、茶髪の魔法少女ーー虎森 大河は八重歯を見せ蔑みの笑みを浮かべる。


「と、虎森ちゃん。あ、あのね。あの光はね」


「み、みんなの傷を」


懸命に夕日は自らの力の説明をーー


だがそれを虎森は遮る。


夕日の小さな肩。

それを掴み、虎森は吐き捨てた。


「あのさ。気軽にちゃんづけしないでくれる? ずっとうぜぇって思ってたんだよね。わたしと夕日は別に友達じゃないんだし」


鋭い眼光と、顔に滲む威圧。

夕日は怯え言葉を飲み込んでしまう。


そんな二人に、声がかかる。


「傷の治癒。って夕日ちゃんは言いたかったんだね。うんうん。わかるよ、夕日ちゃん。ほら、虎森。その手を離して。夕日ちゃん怖がってるじゃん」


「はーい」


従い素直に手を離す、虎森。


「ほら、夕日ちゃん。もう大丈夫だよ」


響く優しい声。

それに夕日は、声の響いたほうへ視線を向ける。


「あ、ありがとう。めぐみちゃ」


だがそこで夕日は、見てしまう。


金色の髪の毛を揺らすーー佐伯 恵。

その少女の手の中。

そこに、傷だらけになりピクりとも動かない子犬の姿があるのをはっきりと。


「ほら、チャンスだよ。みんなに夕日ちゃんの力を見せつける。チャンス。ここで力を見せつけることができたら、ここにいる私たち以外の魔法少女のみんなも夕日ちゃんのこと認めてくれるかも」


「ほら、その手に握った魔法のステッキ。そこから光を放ってこの子犬を治してみせてよ」


「……っ」


夕日は涙を拭い、魔法のステッキを掲げる。

そして純白の光を放ち、子犬の傷を癒そうとした。


"「わんわん」"


魔法少女になる前の夕日。

学校で馴染めず、ひとりぼっちだった時。河川敷で夕日は子犬と出会った。


互いに寄り添いーー


そして、そして。


しかし、光は子犬を癒すことはなかった。


「どう、して。どうして。どうして」


とめどなく流れ落ちる夕日の涙。

それに、魔法少女たちは告げる。


嘲笑まじりに、告げた。


「だって、この子犬ゴミ


「もう、わたしたちが殺したんだもん」


「ふふふ。亡骸を蘇らせるくらいの力。それがあれば、夕日ちゃんは無能じゃなかったかもしれないわね」


「あーあ……夕日ちゃん。せっかくのチャンスを潰しちゃったね」


響く底知れぬ悪意に満ちた笑い。

それに夕日はその場に両膝をつき、空を仰ぐ。

曇天。それはまるで、今の夕日の心を現しているかのよう。


「ぁ…っ、ぁっ…あっ」


声にならぬ声をこぼし、夕日は涙を流す。

呼応し、ぽつりと雨が夕日の頬を濡らす。


そして、覗く茜の薄ら笑いを浮かべた顔。


そして、夕日の手からステッキが奪われーー


「じゃあね、無能少女ーー如月 夕日」


「無能少女なら。このステッキはいらないよね」


夕日の顔の上。

そこで、夕日の魔法のステッキはへし折られる。


ベキッと。


まるで、夕日の心を砕くようにして。



そしてこれが。



如月 夕日のはじまりにしてーー終わりへと向かう物語の始まりなのであった。

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