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帰るだけの場所

靴を脱ぐと、家の匂いが鼻に届いた。どこか油のような、古い味噌汁のような、懐かしいけれど少し疲れた匂い。


「今日、夕飯なに?」


靴を揃えながら訊ねると、澄子が台所から「鯖焼いたのと、切干し」と答えた。咳混じりの声だった。


雪野は無意識に顔をしかめる。


「…いいや、今日は食べない。疲れた」


そう言ってリビングを通り過ぎ、自室に入った。母の返事は聞こえなかった。背後でまな板の音が小さく響いていたが、それもすぐに途切れた。


部屋は静かだった。テレビをつけると、くだらない恋愛バラエティが流れていた。若い男女がきらびやかに笑い合っている。


何をやっても、何を見ても、特別な気分にはなれない。ただ日が暮れたことを確認して、布団に潜る。


電気を消す前、雪野は画面に映る笑顔たちをぼんやり見つめながら思った。


──あの人たちは、家事もやってるんだろうか。


けれど、湯も沸かしていない夜に、そんな疑問はやがて眠気に溶けていった。


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