変わるということ
父の病室には、いつもの椅子と、窓辺の鉢植え。そして変わらないようで、少しずつ移ろう空の色。
雪野は、仕事を探すことをやめていた。昼過ぎに病院へ向かい、父の話を聞き、病院食の様子に目を配る。その繰り返しの中に、かつて感じた退屈は不思議と消えていた。
「ここで、必要とされている感じがする」
そう思うようになっていた。
ある日、病院のエレベーターで介護スタッフたちが交わす会話が耳に入った。「初任者研修の申し込み、今日までだよ」と。なんとなく、その言葉が心に残った。
帰宅後、ネットで調べた。介護の資格。研修時間と費用。思っていたよりも手が届く範囲にあった。
申し込んだのは、その翌日。
あんなに「人に尽くすこと」に違和を抱いていたのに。あんなに「母の役割」が嫌で仕方なかったのに。
今の雪野には、それが“生きている感触”だった。
フォームに名前を入力しながら、梢はふと息を止めた。
──変わるって、こういうことなんだ。
誰かのためでなく、自分のために選ぶ役割。それが、今の彼女を支えていた。




