繰り返しの中にある静けさ
話は、いつも似たような内容だった。
「会社の昼休みには、大体あの喫茶店に行ってたんだ。梢、覚えてるか?あそこのナポリタンはなかなかだったよ」
「君が小さかった頃、よく夜泣きしてさ……お母さんが困り果ててたっけな」
それは、まるでカセットテープを繰り返すような、同じ記憶の輪唱だった。言葉の順も、間の取り方も、昨日とほとんど変わらない。
だが、梢にはそれが心地よかった。
誰かと過ごす時間に、予測できる安定と、ゆっくり染み渡る安心があることを知った。
そして父の声には、過去をなぞる優しさがあった。かつての時間が、今もどこかに息づいているようで──。
毎日少しずつ病室の窓辺の光が変わるように、父の話もごくわずかずつ、形を変えていった。
同じ話の中で、昨日は出てこなかった人の名が現れることもあった。夕暮れの色が少し違うだけで、記憶の風景もすこし違って見えた。
梢は、もう一度、父の話を聞く準備をしていた。
それは「知らなかった時間」を知る旅ではなく、「すでに忘れかけた大切さ」を思い出す旅だった。




