その子また男と消えたんだって
給湯室の隅で、湯気の立たない緑茶をすすりながら、雪野は同僚の今井と並んでいた。昼休みという名の、わずかな解放時間。
「聞いた?あの子、また営業の田島と食事してたらしいよ」
今井の声はわざとくぐもらせていたけれど、その目はしっかりと周囲を意識している。雪野は頷いた。それだけで会話は進む。
「田島、奥さんいるんでしょ。まあ、どうせあの子も真剣じゃないでしょ。顔だけで選んでるの、バレバレ」
今井が鼻で笑う。雪野も、声は出さずに笑った。というより、笑ったふりをした。内心では「私の方がまだマシだ」と思っていた。私は顔で選ぶけど、せめて“自分の人生”には手を出さない。
「若さだけでちやほやされてる今だけよ。そのうち手のひら返されるって」
今井の言葉に、雪野はようやく口を開いた。
「まあね。でもそれが一番輝いてる時期って、悲しいよね。何も知らずに輝いてるって」
今井は少しだけ沈黙したが、すぐにスマホを取り出してランチの写真を選び始める。話は、それ以上続かなかった。
誰かを下げることで、ほんの一瞬、心が持ち上がった気がした。でもそれは、ぬるいお茶と同じくらいすぐに冷めていく。
昼休みは終わった。スクリーンの前に戻れば、また数字と、誰にも見られない時間が待っていた。




