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手間の中にあるもの
惣菜を買えば、それなりに食卓は整う。パックを開けて皿に移し、汁物と合わせれば一日の献立になる。昔なら、雪野はそれを選んでいた。少なくとも、効率がよかったから。
けれど今は違う。仕事を失い、ポストに投函される履歴書の控えだけが、自分の“社会”との繋がりになった。残された時間は、ぽつりぽつりと余っていた。
家事に意味がないと思っていた。掃除は面倒、洗濯はうるさい。料理に至っては、「やったことがない」ことを理由に手をつけようとしなかった。
でも、炊飯器の蓋を開ける瞬間、ふわりと湯気が立ち上ると──そこに「今日を終える」ための行為があるような気がした。
自分のペースでできる。それは、何にも縛られないことでもある。皿を拭く手つきひとつにも、雪野はだんだん“自分”を見つけていった。
冷蔵庫の中に、明日の味噌汁の具材が静かに並んでいる。
惣菜じゃない、手をかけた食事が始まりつつあった。




