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女子一人、お湯を沸かすだけの夜  作者: バッシー0822


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差し込む隙間

昼休みの給湯室。


今井が誰かにもらったらしい焼き菓子を机に並べて、「おいしいよ。食べる?」と差し出してきた。雪野は「ありがとう」と受け取ったが、微笑みの温度が定まらなかった。


その指には、まだ見慣れない指輪が光っている。


「式はしないけど、家族だけで食事会はしようって話してて」


そう語る彼女の声は、いつもより一段軽かった。幸福の表情に、雪野はうまく顔を向けられなかった。ただ黙って、焼き菓子を口に運ぶ。


──どうして、そんなに自然に“選ばれる側”なんだろう。


今井の顔がまぶしく見えるわけではない。ただ、その表情を見ていると、自分がとても遠い場所にいるような気がした。惨め、という言葉さえ浮かばず、ただ感覚がすり減っていく。


午後の業務中、ふと今井の笑い声が後方から聞こえてきた。その瞬間、雪野はマウスを握る手に力が入りすぎて、誤ってシートを閉じてしまった。


誰も気づかない。


でも彼女の中で、何かが小さく軋んだ。


終業後、雪野はそのまま真っ直ぐ帰路についた。今日はスーパーにも寄らなかった。カバンの重みだけが、背中にまとわりついていた。

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