戻らないあの頃
夕飯に手をつけず、部屋の明かりもつけないまま、雪野はソファに沈んでいた。
ふと、大学時代の記憶がよぎった。あの頃の自分は、まだ希望に触れていたはずだった。けれど、それは誰かと“本気で向き合う”ことを避けてきた時間でもある。
「男なんて」と口にするのが、当時の雪野の防衛だった。周囲が恋人の話で盛り上がる昼休み、彼女はわざと冷めた目で言った。
「どうせみんな、若さか見た目しか見てないんだから」
簡単に付き合って、簡単に飽きられて。彼女にも何人かいた。でも長く続いた関係はなかった。言い訳は常に「面倒くさいから」。
──傷つく前に終わらせる方が楽だった。
今、同僚の今井の笑顔がよぎる。あの昼休みに結婚の話をされたときの、ほんのり頬を紅潮させた顔。眩しくはなかった。むしろ、なぜか胸が苦しかった。
それは嫉妬ではなく、“理解できない道を歩く人”への奇妙な違和感だった。
雪野は毛布を引き寄せながら、テレビの音量を少し下げた。
──どうしてあの子は、信じられるんだろう。
その答えは分からない。でも、心の中で小さな波が生まれていた。




