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今日もいつも通り
──パソコンの画面が、無表情な光を放っていた。
営業部の派遣デスク、隅っこ。雪野はそこに、今日も定刻通り座っていた。Excelのセルをひとつずつ埋めていく作業は、もう何年も変わらない。誰が見ても「簡単」と言う作業。でもそれは同時に、誰も興味を持たないということでもある。
指先は淡々と動く。画面の中に並ぶ数字たち。ミスがないよう何度も確認するけれど、誰も彼女に感謝することはない。昼休みが近づき、周囲の社員たちはスマホを手に、話題のカフェや最近のドラマの話題で小さく盛り上がる。
「結婚式って、いくらくらいかかるんだろうね」
斜め向かいの席から、そんな声が聞こえた。
雪野は画面から目を離さず、マウスをひとつ転がした。何かを聞こえないふりをするのが、この職場では身を守る手段でもあった。
彼女の心の中では、カフェもドラマも、結婚式も、ずっと遠くの島の出来事のようだった。