Aと一条
興味を持っていただいてありがとうございます。
実話を元にしたフィクションです。
友情は、必ずしも双方向じゃないと思っています。
*素人ですので、書き方のルールなどは詳しく知りません。
好きに書きたいだけですので、ルール等が気になる方はお気をつけください。
無愛想なやつ。
初対面の印象はそんな感じだったと思う。
憧れだった県内有数の新学校に進学出来た俺は、これからの新生活に不安と期待が入り混じった状態で初日の朝を迎えていた。
俺の中学校からこの高校に来た人は他に一人だけ。しかも全く面識がないものだから、実質知り合いのいない高校に入学したようなものだ。
そんな不安とは裏腹に、目の前に聳え立つ立派な赤い門が、改めて俺はこの高校に入学できたのだと気持ちを高揚させてくれる。
どうやらこの学校は随分歴史があるらしく、元藩校が今の高校になったのだとかみんな知ってる著名人が輩出されているのだとかなんだとか、親戚のおばちゃんが色々言っていた。
ーとはいえ、そんなことは今はどうでもいい。
まずは友達作り。
最初の印象が肝心だぞと、強く自分に言い聞かせ、同じように不安そうな顔をした学生を多く見守ってきたのであろう、語られるくらいには歴史のある赤い門を俺も同じような表情でくぐり抜けた。
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「ーまずは前後の席の人と自己紹介をしましょう。その後、他者発表の時間を設けます。自分ではなく、相手のことを発表するんです。時間は5分ほど取るので、しっかり話し合ってください」
珍しい自己紹介の方法だなという感想と、林修に似てるなこの先生はというどうでもいい感想が頭に出てきたが、すぐに頭を切り替えた。
他者紹介。
制限時間は5分。
お互いのことを話すとなると2分半しかない。
急がなければと、早速後ろの席のやつに話しかけようとする。
とはいえ慌てること勿れ。
言わばこれは、最初の友達作り。
第一印象が肝心だということを思い出し、
「じゃあ、俺から始めるね。俺の名前はAっていいます。早速だけど、これからよろしくね」
後ろを振り返ってできる限りの満面の笑みで声をかけた。
しかし、俺の渾身の笑顔は完全にスルーされ、声をかけられた相手は、酷く面倒くさそうに、そして全く目に合わせずにぼんやりと窓の外を眺めながら
「一条綾瀬」
とだけ答えた。
思わぬ反応に少々面食らったが、奥手なタイプなのかな?と思い再度笑顔で話しかける。
「一条くんか!えーっと、一条くんは部活とか決めてるの?」
「バレー部」
「へぇ、バレー部!俺も興味あるんだ!」
共通点が見つかり、思わず声のトーンが高くなる。
俺は中学校サッカー部だったのだが、本当はバレー部に入りたかったのだ。
部員が3年生の先輩一人だけと廃部寸前だったので、残念ながら断念したのだが。
「そうなん」
テンションが上がった俺とは対照的に、相変わらず綾瀬は無愛想な返事をするばかり。
しかし俺はめげずに質問を続ける。いや、続けねばならない。
というのも、ただ共通点を見つけたのが嬉しくて質問をしているわけではない。
綾瀬のことをある程度ちゃんと知らねば、今回課された他者紹介という発表を上手く遂行することが出来ないのだ。
友達のいない高校での入学初日の発表。
悪い目立ち方をするのは出来れば避けたい。
そういった思いもあり、なんとか綾瀬のことを聞き出せないか、そしてあわよくば最初の友達にもなれないかと期待を寄せながら、
「結構長いことやってたの?良かったらバレー部、一緒に見学行こうよ!」
と切り出した。
「いや、いい」
清々しいほどにバッサリである。
社交辞令のかけらもないストレートすぎる返事に思わずひるんでしまう。
「あっ...と、そっか。まぁ一人でゆっくり見たいとかもあるもんね。じゃあ逆に一条くんは何か俺に聞きたいこととかない?」
「いや、特には」
質問してダメなら質問させる方向にシフトさせようと戦略を変えてみたが当然ダメだった。
ここまでとりつく島がないと流石にイラついてしまう。
つい苛立ってしまった俺は
「一条くん、もうちょっと真面目にやろうよ。この後発表もあるんだしさ」
と少し非難する声を出してしまった。
すると綾瀬は初めて窓から目を外し、俺の方を見て
「俺、そういうのいいや。お前真面目やね。」
とだるそうに言い、再び窓の外に目を向けた。
「いや、そうじゃなくて...」
と反論しようとしたところで、
「じゃあそろそろ発表に移ります」
と先生から声がかかってしまった。
しまった。結局何も聞き出せていない。
そう思うがもう後の祭り。
これ以上話すこともできず、俺はすごすごと体を前に戻す。
他の人たちが相手の趣味や中学校時代のエピソード、高校生活の意気込みなどを丁寧に紹介していく中、遂に俺の順番が来てしまった。
「じゃあ、次はAさん、一条さんの発表をお願いします」
「はい...。彼の名前は一条綾瀬くんです。部活はバレー部に入るそうです....」
「...終わりですか?」
「はい、すみません...」
訝しむ先生の目線を一身に受けながら、申し訳ない気持ちで席に座る。
一番恐れていた形の目立ち方をしてしまった...。
周囲から聞こえるヒソヒソ声から察するに、最悪の第一印象だなと、深くため息をついたところで
「...では。一条さん、Aさんの紹介をお願いします」
と先生が綾瀬に順番を促す。
そうだ、こいつは俺のことなんて何も知らないのに一体何を話すんだ?
そう思いながら綾瀬の方に視線を向ける。
すると綾瀬はだるそうに席を立ち、たった一言。
「Aくん。真面目みたいです」
周囲のざわつきも意に介さず、再度だるそうな態度で席に座った。
ーーーこいつ、絶対仲良くなれないタイプだ。
困惑する先生と目が合った俺は、苦笑いすることしか出来なかった。
お読みいただきありがとうございます。
実話を元にしたフィクションです。
Aの名前は今後も出てきません。
AはAです。それ以上でも以下でもなく。
ペースはゆっくりだと思いますが、ぜひ更新を楽しみにしていただければと思います。
よろしくお願いいたします。