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洋菓子屋のお悩み相談

作者: 名日田ひな



『なんだよ、離せよ!絶対に殺す!殺してやる!』

「あらら、それはダメだって言ったのに…」


とある洋菓子屋のバックヤード、子供が大好きおやつの時間に、ガラクタが散らかった部屋のソファで横たわりながら

お行儀悪く器用にコーラを飲んでテレビ鑑賞する男がつぶやいた。




-カランカラン-



どうやらお客さんが来たようだ。


お店のカウンターには限りなくチャイナ服にちかいメイド服の高校生くらいの見た目の女性店員がいた。


「いらっしゃいませ〜」


どう見ても洋菓子に興味がなさそうな学生服を着た男性は、キョロキョロと店内を見渡した。



「あ、あの、すみません」


「はいは〜いどちらになさいますか?ちなみに新作のコンポタクッキーが…」


「いや、あの、男性の店長さんっていますか?」



その言葉を聞き、一瞬にして目を輝かせた少女は

「少々お待ちください!」

といい残してバックヤードへと走っていった。



その数秒後

明らかに肩にコーラを零したシミをつけた白パーカーの男が表にでてきたが、かなり機嫌が悪そうである。



「なにー?いま良いとこなんだけど、君のせいで肩濡れ濡れなんだけど、なに?」


「あ!はじめまして!あの、助けてください!」


「んあ?無理。知らん奴にいきなり助け求められても。じゃ、そゆことで!」


「え!えぇ!?待ってください!!店長に会いに来て、貴方を助けてくれる。ってメッセージカードをみて…」



その言葉を聞くと店長の男性は目を泳がせている女性店員の様子を見て、ため息をついた。



「はぁ…1000万。君払えるの?」

「払えます!」

客人はその直後なぜかハッとした表情で「なんで…」と口ずさむが店長の言葉でかき消される。


「おー!!!気前がいいね。はやく中入りなよ少年?」

「ありがとうございます!」



先程のバックヤードとは別の客間のようなところに客人を招くと、店長と客人はテーブルを挟んで向かい合わせになるように座った。



「んで?どうして欲しいの?」


「祖母は末期癌でもう長くありません。その上、認知症を患っていて治療も拒み続けています。3,4年前であれば早期癌として手術でどうにか取り除けたけど、もう今の状態じゃ…どうにかできないでしょうか?あー、ほらタイムマシン!とか、、、あるわけないですよね」


「あるよ?」

「あるんですか!?」


「あーでも意味ないよ。一応ルールが5つあるんだけど、その中の1つに、過去に戻って関わりを強くもってしまった人達の記憶の消去ってのがあるんだ」

「あ…」


「まーよくある話でさ、過去に戻って未来を現在を変えちゃーいけないよ?ってこと。未来の時間警察に逮捕されて、その未来の君の子孫、いないとしたら君自身が罰を受けることになる多分。勿論、過去で関わった者の記憶は消えるみたいだしね」


「そんな。それじゃあ、助けられないじゃないか…」


「んーそうだね。僕にはおばあさんを助けるのは無理かなー。ごめんねーそんじゃ」




ひどく落ち込んでいる客人をよそに、かなり冷徹に男性は女性店員に目配せし、帰らせるよう合図した。


女性店員に肩を軽く叩かれた男性は今にも死にそうな顔で立ち上がった


「…失礼します」


「んあ、ごめん!まった!良い事教えてあげるから、ひとつ教えて欲しい。どうやってここを知ったの?」


「祖母は貴方のお店クッキーが大好きで、定期的に買いにきてました。半年前癌ということが分かって以降、ショックで認知症も併発しちゃってボケてからも身体が自由なうちは買いにきてて、ある日クッキーを一緒に食べていたら、お店のメッセージカードに店長に会ってみてください。貴方を助けてくれます。って子供の字が書いてあって嘘か本当か分からないけど祖母の様態が悪化して思い出して」


「やっぱオカさんか…」



女性店員は不自然に目を泳がせて口を尖らせていた。何を隠そうこの人がそのオカさんである。



「ありがとう。代わりに君にひとつだけ教えてあげるよ」

「えっ?」



客人は店長の告げた言葉を聞くと、目を見開いて驚き、まるで現実を受け入れていない様子のまま店を出ていった。



「店長、タイムマシンなんてないですよね?」


「あるよー、てかさ、オカさんやめてよねー。僕が助けるなんて書いちゃあいけないよ?こりゃ改良が必要かな?」


「店長、私は壊れてないです。ただ少し字は苦手ですが…他は完璧です。この眼の機能も完璧すぎて、きみえさんが腰が痛そうにしてることに気づいたんです。大丈夫ですか?と声をかけたら、私もう長くないのよねって私は大丈夫だけど息子のことが気になるって。あの方は大切な方です。少しでも希望をあげられればと、いつも入れるメッセージカードの裏に書いてしまいました。」


「おバカ、不確定な希望を与えることほど残酷なことはないんだよ」


「でも私は博士の開発したものできみえさんの腰痛を軽減してあげればと…まさか癌でしたか…」


「腰痛じゃそこまで悩まないでしょ…笑

えーてかさなんで大切なの?ぼくよりも?気になるなー。妬けるなー。まぁいいけど、なんにしても彼は現実と向き合った方がいいね」


「現実?」


「助言はしてあげたよー。あとはしーらない」






---はぁはぁっ

うそだ。絶対うそだ。

ばあちゃんの病院。どこだっけ

いや待って病院?ちがうちがうばあちゃんは家にいるだろ治療してないんだから






「半年前に末期癌で治療もしなかったおばあちゃんが今、様態が悪化するかい?なぜ無職の彼が1000万なんて貯められるのさ、認知症なのに1人で出かけてクッキーを買いにきて息子と食べる?色々疑問でね」


「仮説をたてたんだよ。おばあさんが亡くなっていて多額の保険金がおりた。認知症は嘘でおばあさんがそもそも治療を拒んだのはお金の為なんじゃないかって、休日の学生服かけ違えたボタンに寝癖、そして匂い、記憶が曖昧なのは彼自身。だって彼どうみても大人だし」


「えっ、おとな…」


「さぁてと、オカさんの大切な人癖にも困ったもんだー慰謝料として焼きたてのクッキーが食べたいなぁー」


「はぁ…店長は心ってものが欠如してるんじゃないですか?」



-カランカラン-



これはとある洋菓子屋の店長と店員のお話。


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