南部へ・番外編2・さらば南部の…
「入るぞ」
ジェラルド達一行が南部を去る朝、兵舎の一室へ軟禁状態のランドールを、ジェラルドは訪ねた。
ランドールは一人用の簡易ベッドへ仰向けで横たわる。
着替えもしておらず、夕べの紺色の軍服のまま、ブーツも脱いでいない。
そのターコイズの瞳は見開かれ、天井の一点を見つめていた。
「…聞いたよ、僕、北部へ送られるそうだね」
ジェラルドは手近の椅子を引き寄せて座る。
アイザックはジェラルドの後ろへ立つ。
「南部の者達とも話し合った結果だ」
ジェラルドは簡潔に答える。
「……別にいいけど、今更あのジジイに頭を下げるのは、嫌だな」
北部じゃロクな思い出ないし…ブツブツと文句を垂れる。
『ジジイ』とは、北部をまとめるローレンスのことだ。
ランドールとローレンスは昔からの犬猿の仲で、特にローレンスはランドールを毛嫌いしていた。
「好きも嫌いもない。お前は北部へ行き、ローレンスに従って一騎士として鍛練しろ。南部のことは一旦忘れろ」
ランドールはガバッと起き上がり、真剣な眼差しでジェラルドを見る。
「僕、またここ(南部)へ戻れるんだよね?」
ジェラルドとアイザックは顔を見合わせた。
「ランドール、それはお前次第だ」
ジェラルドは厳しい顔を崩さない。
ランドールは、またパタリと仰向けに寝転がる。
「処分を受け入れるとは言ったけど、これじゃまるでイジメだよ」
「ふざけろ!どの口が言うんだっ」
アイザックが窘める。
「お前はそれだけのことをしでかした、という事だ」
ジェラルドは淡々と述べる。
「…せっかくレディと仲良くなれそうだったのに」
アイザックは「はあ?」と言うと、これ以上ここに居るとランドールを殴りそうだから扉の外で待つわ、とジェラルドに告げ部屋を去った。
「…ランドール、これは私の気まぐれでもお前への個人的な遺恨でもない。ダヴィネスへの反意の一歩手前と判断した皆の総意であり、事実上お前の更迭だ」
「…更迭…」
ジェラルドは椅子から立ち上がる。
「南部の事なら心配は無用だ。デズリーはじめ、お前より余程信頼のおける4姉妹が恙無く働くだろう」
ジェラルドは扉へ向かう。
「これよりお前は北部へ行くための準備を進めろ。フリードを置いていく。悪あがきをしても無駄だぞ。じゃあな」
ジェラルドはパタリと扉を閉めた。
「くそ…」
ランドールは、なおも寝転がったままだが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
悪態をつけども、全ては己の誤った判断が招いたことだ。
今度ばかりは、責任を取らざるを得なかった。
「あ~あ、北部かー…ヤだなぁ」
ランドールはくるりと横向きになり、朝寝を決め込んだ。
それから数日後に、ランドールは北部へ向けて南部を後にした。