南部へ・番外編1・ホッと一息
少し趣向を変えて、戯曲風に書いてみました。
フリードとアイザックのうだうだです。
i→アイザック
f→フリード
i「俺、目の前に栗が出た時、ロングソード(騎士が腰に携える剣)を全部回収しようかと思ったぜ、マジで」
f「私はとっさにパメラとソフィアの顔が頭に浮かびましたよ」
真夜中過ぎまで続いたランドールの処遇についての会議がやっと終わり、フリードとアイザックは厨房横の使用人用の食堂で二人だけの打ち上げをしていた。
しかし打ち上げ…というのは名ばかりで、実際は「飲まねーとやってらんねぇ」というアイザックの希望に、フリードが付き合う形だ。
だが、南部残留を余儀なくされたフリードとて、飲まずにはいられない気分ではあった。
厨房にはすでに人気はなく、シンと静まり返っている。
i「ま、そりゃそうだろ。実際のとこ、あれだけの怒りをよく収めたよ、ジェラルドのヤツ」
アイザックがグラスの酒をあおる。
f「カレン様も必死でしたし…アンジェリーナ様の存在が大きかったですね」
i「だな…。娘には辺境伯も勝てねーな…おっと、すまん、お前もだな」
f「ええ。ランドールにはデカい貸しができた」
南部に残留するフリードはアンジェリーナと同い年の、愛娘のソフィアに当分会えない。
二人は黙ってグラスを傾ける。
i「しかし、姫様…どうしてああも捨て身になれるかなぁ」
アイザックの言葉にフリードはフッと笑い、グラスに残る酒を見つめる。
f「カレン様はダヴィネスに来た時から、何一つ変わってませんよ…一点の曇りもなく、ダヴィネスとジェラルドのことだけをお考えです」
i「しっかしあの思い切りの良さにはいつまで経っても慣れねぇよ。こっちの腰が抜けそうになる」
フリードは声を上げて笑った。
f「ははっ確かに!予想の遥か上を行きますからね」
i「ジェラルドも早いとこ諦めた方がいいよな。姫様は守られたり閉じ込めたり…そんなのとは違うって」
f「まあ…男としては、わかっていてもなかなか難しいでしょう。ましてやあそこまで夢中だと尚更。しかし、ジェラルドも葛藤しつつ楽しんでる節もありますよ」
i「マジか!そりゃ重症だな」
f「ええ、かなりのね…それでダヴィネスが安泰なら、我等の口出しは無用ってことです」
i「だなー」
二人は揃ってグラスをあおった。
明日はダヴィネス城へ向けて南部を立つ。
アイザックは、フリードから妻のパメラ宛の長い長い手紙を預かることになるのを、この時はまだ知らない。