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辺境の瞳~南部へ北部へ~  作者: 鵜居川みさこ
3/20

南部へ~その3~姉妹達との夜

「今日は大物を釣り上げたそうだな」


 部屋に戻ってきたジェラルドが、さも楽しそうだ。


「…はい。その場でダフネが調理してくれて、楽しいランチでした。アンジェリーナも大はしゃぎで、疲れてぐっすりです」


「それは良かった」


 カレンはジェラルドの上着の脱ぐのを手伝う。

 南部へは執事のモリスは伴っていないので、城にいる時とは違い、ジェラルドは自分のことは自分でこなしている。


「デボラから、釣りは短気な方が上達すると言われて…私は見込みがあるそうです」


 それを聞いて、ジェラルドは大笑いをする。

「確かにあなたは気の長い方ではないな」


 カレンは、そうかしら?と自覚がない。


「ジェラルド、もうお休みになられますか?」


「いや…この後ランドール達と少し飲むから、あなたは先に休んでいて」

 と、にこりと笑う。


 カレンは、巨大なベッドに目を移した。


 どう考えても大きすぎるだろう。

 なんでこれを用意したんだろう。

 カレンは、なるべくこの巨大ベッドに意識を向けないようにしていたが、改めて考えてみる。

 夕べ眠った感じでは、二人でも大きいのに、一人ではなんだか落ち着かない。


「カレン?」


「……」

 カレンは考え事で気もそぞろだ。


「ひとりだと寂しい?」


「!」

 カレンはクルリとジェラルドへ顔を向けると、ブンブンと首を振った。

「いいえ!」


「でも…」ジェラルドはカレンを腕の中に取り込んだ。

「夕べはいつもより私にくっついていた」

 と、確信犯的な勝者の笑顔を見せる。


 もう!カレンは赤くなる。


「はは、しかし確かにこのベッドは大きいな…いったいランドールは私達に何をさせたいんだ」

 呆れながらも楽しそうだ。


「あなたは何がしたい?」

 と、紅潮したカレンの顔を覗いてくる。


 …ジェラルドは、ジリジリと少し意地悪く楽しげにカレンを追い詰める。こういう時のジェラルドは、本当に手に負えない。


「…もう、ジェラルド…私も怒ります」


 ジェラルドは楽しそうにカレンの頬や顎をつまみ、洗い立ての髪の毛を一房取るとキスをした。


「それはいけない。そうだな…4姉妹に頼るとしよう」

 と言うと、寝着だけのカレンにガウンを着させ、前をキッチリと併せてベルト布を結んだ。

 次にカレンの手を取ると部屋を後にした。


 ・


「邪魔してもいいか?」


 どこに連れて行かれるかと思ったが、着いた場所は半地下になった厨房だった。


「あら!ジェラルド様!」


 広い厨房の1ヶ所に、デズリーを除く4姉妹のうちの3人が集っている。

 ジェラルドが顔を出すと、3人が一斉に立ち上がった。


「何かご入り用でしょうか?すぐにお持ちいたします」

 すかさず長女のダイアンがジェラルドに問う。


「いや…そうではないんだ」

 と、繋いだ手の先のカレンが姿を現した。


「まあ!」

 3人が一斉に驚く。似た顔で驚くので、カレンは笑ってしまった。


「実は、私はこれからランドール達と飲みなんだが、しばらくカレンの相手を頼みたい」


「まあまあ、それはもちろんでございます!でも…こんな所でよろしいのですか?」

 ダイアンは困り顔だ。


「私もこのような格好ですし…もしよろしければ少しだけお仲間に入れてください」

 カレンは場所など全く気にしない。それよりも秘密の会合に仲間入りさせてもらうようで、何だかワクワクしていた。


「これで寂しくない?カレン」

 ジェラルドはまだ手を離さない。


「はい、ありがとうございます。ジェラルド」


 ジェラルドは黙って微笑むと、繋いだカレンの手に、次いで額にキスを落とした。

「また後で」

 とカレンの頬を片手で包むと、カレンはこくりと頷く。


「では頼んだぞ」

 3人に言うと去りかけ…

「そうだ」と後戻りをする。

「念のため言っておくが、カレンは…酒が強い。お前達が想像する以上に強いんだ。だからと言って…あまり飲ませないでもらいたい」


 3人は瞬間呆気に取られたが、直ぐ様「承知いたしました」と各々言い、領主を安心させた。


 ・


「はぁぁぁ」四女デボラは盛大にうっとりとため息を吐く。

「『また後で』か…熱いな」三女ダフネはカレンの前にワインの入ったグラスと、簡単なおつまみの乗った小皿を置く。

「ちょっとあんた達!」長女ダイアンは妹達を諌めるのが忙しい。


「だって姉さん、噂の領主様ご夫妻の生の睦まじさを目の当たりにしたんだよ。うっとりもするって」

 デボラは興奮覚めやらない。


「確かにね、新婚ホヤホヤって言ってもいいくらい。ふぅー、もう一杯飲まなきゃ」

 ダフネも勢いづいている。


「…奥様、どうかご無礼をお許しくださいませ」

 ダイアンは、一人カレンに気を遣う。


 カレンはクスクスと笑う。

「こちらが押し掛けて来たんです。本当にお気になさらないでください…あと、私のことはカレンと呼んでもらえますか?」


 このような場に、身分や立場の違いはそぐわない。

 カレンも姉妹達のおしゃべりに加わるのだ。


「…わかりました。寛大なお心に感謝申し上げますわ…カレン様」

 ダイアンは穏やかに微笑んだ。


 姉妹達との会話は弾み、女同士の話題は尽きない。


「では、毎日ここで?」

 カレンは既に3杯目のワインだ。

 ジェラルドはああ言ったが、ここでは空のグラスは許されないらしい。


「はい。大概はこの3人ですが、たまにデズリーも。ランドールがなかなか離してくれませんが…」

 ダイアンはため息交じりだ。


「私は夫が早出当番の時ですね、まぁでもほとんどそうかな」

 ダフネの夫は、もう一人の料理長とのことだ。


「私はよっぽどのことがない限りは毎日います」

 最も身軽なデボラは、クイッとワインをあおった。


 ちなみに、ダイアンの夫は家令職に着いており、今はダヴィネス城の文官達と監査の真っ最中とのことだ。


 話題は様々で、時間はあっという間に過ぎる。

 ランドールとデズリーの馴れ初めや南部の食について、他愛ない噂…と、カレンもお喋りが弾む。


 しかし、最後はやはり、カレンとジェラルドの話題へと行き着く。


「私、ジェラルド様があんなに独占欲がお強いとは思ってませんでした」

 デボラが感心する。すっかり出来上がっている。


「確かに!」

 ダイアンとダフネも同意する。2人もかなり飲んでいる。


「そう…ですか?」

 カレンは量はかなり飲んだが、酔ってはいない。やはり強い。


 3人、特にデボラは激しく首肯する。

「だって…今のお召し物、そのガウンはジェラルド様がお着せになられたのでは?」


 カレンは下を向いてガウンを確かめる。

 確かに、ジェラルドに着せられた。


「ふふふ、少しでもカレン様の寝着や素肌を人の目に曝したくないのですわ。そんなにカッチリ前を併せて…」

 と、生ぬるくカレンを見る。


「え…」

 カレンは恥ずかしさに頬を染めた。


 姉妹はカレンを見てふふふ、と微笑み合う。


「辺境伯に絡め取られたら、絶対に逃れられないってことですわね!」

 ダイアンが音頭を取り、もう何度目かわからない乾杯をした。


 夜も更け、そろそろお開きの時間となり、カレンはデボラに伴われ客室へと帰った。


「それでは、おやすみなさいませ、奥様」


 かなり酔っていたのに、必要とあれば侍女然とした態度に戻るのは、さすがとしか言いようがない。


 カレンは「おやすみなさい」と返し、部屋へ入ると、ベッドを見て驚く。

「ジェ、ジェラルド???」


 なんと既にジェラルドがベッドに頭を支えた姿で横たわっている。

 てっきり、朝方まで飲むだろうと思っていた。

 髪は少し乱れ、シャツの前をはだけて、かなり色っぽい。

 しかも…かなり飲んでいる雰囲気だ。


「…話が弾んだようだな…」


 カレンを見つめる瞳が薄暗いランプに照らされ、すでに大きく揺らめいている。


 カレンはそろり、とベッドに上がる。


 すぐにジェラルドがカレンを引き寄せ組み敷くと、自ら結んだガウンの布ベルトをほどく。

「楽しかった?」


「…はい」


 ジェラルドはチラリとカレンの目を見る。

「私は一人で寂しかったぞ」


 …なんてワガママなんだろう。

 カレンは珍しいジェラルドの少年のような言葉に、呆れながらもクスリと笑う。


 ジェラルドは手の動きを一瞬止めたが、すぐに寝着の前リボンをほどくとカレンを抱き締め、まろび出た白い胸の谷間に顔を埋めた。


「はぁ…」と熱い息を感じる。


「!」


 カレンは突然の刺激にピクリと反応した。


 ジェラルドはそのまま強めに吸い付いたかと思うと、舌を這わせて、カレンのデコルテ~喉元~喉を下から舐め上げ、顎先まで来ると、パクリとカレンの唇を食べた。


 まさに食べられた、という感じで、カレンは驚きながらもされるがままだ。

 その間も、ジェラルドの手は滑らかに、だが性急にカレンの寝着を脱がせていく。


「ジェラルド?」

 深い口付けから解放された瞬間、カレンはたまらず呼び掛けた。


「………ん?」


 野性味を帯びた深緑の瞳が、金の光彩を煌めかせて、カレンを覆い尽くす。

 その獣は、王者の微笑みを浮かべる。


「食べ尽くす」


 !!


 カレンは早々に諦めて、甘美な獣に身を委ねた。


 ・


 翌朝、カレンはかなり日が高くなってから目覚めた。


 ジェラルドは朝から鍛練場だ。


「ふぅ」


 久しぶりに、腰が立たない。


「…奥様、今日はごゆっくりなさってください」

 ニコルが気遣いながら、ベッドで身を起こしたカレンに熱いお茶の入ったティーカップを渡す。


「そうさせてもらうわ」


『食べ尽くす』の言葉通り、カレンの体は隙間なく深くジェラルドに埋め尽くされた。

 この広すぎるベッドもジェラルドにとっては格好の舞台だったに違いない。

 そういう意味では、ランドールの思惑通りと言えた。


「はぁ」

 カレンは知らず息を吐く。


「大丈夫ですか?奥様…」


「ええ。ありがとうニコル」

 カレンはニコリと微笑む。


 ニコルは主の姿を眩しく見る。

 気だるげではあるが、その顔は艶々と幸せそのもので、まるで生まれたての女神のような神々しい美しさにうっとりとしてしまいそうだ。


 しかし、腰が立たないのは久しぶりで、ニコルは少なからずジェラルドを恨めしく思うが…それも目の前の女神への狂おしいまでの愛の深さゆえ、と納得する。


「さ、奥様、落ち着かれましたらご入浴のお手伝いをいたします」


 しかしその声虚しく、カレンは立ち上がれるようになるまで、しばしの時間を要したのだった。

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