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辺境の瞳~南部へ北部へ~  作者: 鵜居川みさこ
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南部へ~その2~南部の洗礼

 南部、スタンレイ男爵の治める地へとダヴィネス城の一行は到着した。


 城砦ではあるが、どことなく華やかな雰囲気が漂うのは、スタンレイ男爵の気質なのか、南部の気候のせいなのか…。


「お待ちしておりました!」


 総勢200名は下らないであろう、騎士や兵士が一斉にジェラルドに礼を取る様は圧巻だ。


 もちろん、先頭には南部を率いるランドール・スタンレイ男爵がいる。

 そしてその横には男装の麗人騎士デズリーも控える。


「元気そうだな、ランドール」


「はっ」


 明るいブロンドにターコイズの瞳の、変わらない綺羅綺羅しい見た目だ。

 珍しく弁えた臣下の礼を取っている。


 カレンは、ランドールとデズリーの結婚の報告以来なので、およそ2年ぶりの再会だった。

 ランドールはその時も少しよそよそしかったので多少の緊張はあるが、何度も南部への招待があったため、今では少しは心を許してくれたのではと感じている。


「デズリーも変わりはなさそうだな、この度はカレンと娘も世話になる」

 ジェラルドが微笑む。


「はっ、息災にしております。ありがとうございます。奥様ようこそ」

 凛々しい笑顔が眩しい。


 デズリーはカレンとジェラルドの計らいで、アーヴィング伯爵の養女となり、晴れてランドールと正式に結婚した。

 今では男爵夫人であり、南部騎士団長であり、側近だ。


 ランドールはカレンへと向き直る。

「レディ、首を長くしてお待ちしておりました。ようこそ南部へ…って、あれ?」


 ランドールはカレンへ表向きの挨拶をしたが、カレンのドレスの端を持ち、壮麗な出迎えをビックリ眼で見るアンジェリーナを目にすると、本来の“ランドールらしさ”が姿を現した。


「君は…アンジェリーナ・ダヴィネスだね?」

 と、つつ…とアンジェリーナに近寄るとしゃがんでアンジェリーナの目線に合わせた。


「…きれいなお目目…」

 アンジェリーナはランドールのターコイズの瞳に釘付けだ。


「ははっ」

 さも嬉しそうに笑うと、ランドールはアンジェリーナを抱き上げた。


「君の瞳の方が何倍もキレイだよ!会いたかった、アンジェリーナ・ダヴィネス」

 と、アンジェリーナの頬にチュッとキスをした。


 カレンとジェラルドは顔を見合わせる。

 ランドールのご機嫌モードが急上昇だ。


 そのまま、城砦へと案内される。


 と、カレンの隣にさっとデズリーが近寄ってきた。

「奥様、いつも申し訳ありません」

「構いません。あまりお気を遣われないでください」

「ありがとうございます。あの、使用人を紹介しても?」

「もちろんです」


 すると、ズラリと3人の女性が並び、礼を取った。


 あ、これは噂の南部4姉妹ね。


 カレンは、ダヴィネス領地内のことをここ数年、時間をかけてフリードから教わっていた。

 大方のことは頭に入っている。


「失礼いたします。向かって左から、侍女頭のダイアン、料理長のダフネ、そして侍女のデボラです…皆、私の姉妹でございます」

 姉妹は紹介された順に再び礼を取った。


「奥様、どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」

 長姉のダイアンが如才なくにっこりと微笑む。


 なるほど!よく似た姉妹、しかも全員美人だわ。

 カレンは感心した。

 デズリーは次女だから、南部城砦は4姉妹で回っているというのは間違いなさそうだ。


「こちらこそ、お世話になります」


「…なんておキレイなんでしょう!」

 4女のデボラはまだ10代だろう。興奮した面持ちで素直にカレンの印象を口にした。


「こら、失礼ですよデボラ!」

 長姉が諌める。

「だってダイアン姉様もお気づきだったでしょ?カレン様をチラチラ見る騎士や兵士達!」


 カレンは笑う。

 遠慮のない和やかさに癒される。


「奥様、改めまして、デズリーの結婚の際には大変お世話になりました。臣下として、またデズリーの家族として心より感謝申し上げます」


 美しい4姉妹は改めてカレンへ頭を下げた。


 ランドールとデズリーの結婚に関しては、カレン自らがアーヴィング伯爵へ働きかけたのだ。

 しかしこうして面と向かって感謝を述べられると、やってよかったとほっとする。


「お二人がお幸せなら、それが一番です。さぁ皆様頭をお上げになってください」


 皆はふふふ、と微笑み合った。


 ・


「少し、手を入れましたの」


 ダイアンに案内された客間は心地よく整えられ、美しい南部の花が飾られている。


 視察にカレンを伴うことがわかると、いの一番に改装されたとのことだ。


「ランドールから、ジェラルド様と奥様は絶対にひとつのベッドを使われると聞かされて、ベッドも新調しました」


 と、天蓋付きのキングサイズよりも大きなベッドを指す。


 カレンは思わず赤面した。


「あらっ、失礼いたしました。でも、お二人の仲睦まじさはここ南部まで聞こえておりますのよ」

 と、微笑む。


「何から何まで…ありがとうございます」


「ランドールはあの通り口には出さないひねくれ者ですが、奥様には深く感謝しております。どうか温かくお見守りくださいませ…なんて言えた口ではございませんが…」

 と恐縮する。


「そんな、わかっております。どうか安心してください」


「ありがとうございます…でも、もし何か失礼がございましたら、どうぞご遠慮なく。私が絞めます」

 頼もしく言い切り、美しい眉を寄せた。


「ありがとう」

 カレンは苦笑した。


 恐らく、ダイアンはランドールのカレンに対するアレコレはすべて知っているのだろう。


 その後、荷ほどきをデボラとニコルが行い、カレンは部屋でお茶をいただいた。


 ジェラルド達はすぐに仕事に取りかかったので、会うのは恐らくディナーの席だろう。


 食事は騎士や兵士達と共に大食堂で取るのがここのやり方と聞いたので、カレンもそのつもりでいる。

 早速今夜のディナーからだ。

 少しばかり緊張するが、これも良い機会だ。


 1週間の滞在をカレンは楽しもうと思った。


「そう言えば…アンジェリーナは?」


「それが…」

 とニコルが言うには、どうやらランドール“が”べったりとのことらしい。

 側にはティムもいるだろうが、なんとなく想像はつく。


「そろそろお昼寝の時間よね…」


「はい」


「迎えに行ってもいいかしら…」


「少し様子を見てきましょうか」


「ううん、私が行ってみるわ」


 確か、今は会議の真っ最中だ。

 その様な席にアンジェリーナを居させるとは、ランドールは余程アンジェリーナが気に入ったらしい。


 会議室の大きな扉の前にいる南部の護衛は、カレンを見るとわかりやすくビックリした。


「お、奥様、何かご用でしょうか?」


「あの…中にいるアンジェリーナ…娘を迎えに来ました。お昼寝の時間なので」


 護衛は「承知しました!お待ちください」と言うと、扉の中へ入った。


 すぐにジェラルドが現れた。

「すまないカレン、ランドールが離さないんだ」


 やはり。


「ぐずったり、困らせたりしていませんか?」

 大切な会議の場なのだ。

 カレンは心配になる。


「…見ての通りだ」

 と、ジェラルドは扉を開けてカレンに中を見るように促した。


 大きな机を囲み、ダヴィネス城と南部の面々が和気あいあいと会議をする中、アンジェリーナはランドールの膝に乗って嬉々としている。

 どうやらお絵描きをしているらしい。


「レディ、心配ないよー」

 と、ランドールがカレンに気づいて、ひらひらと手を振る。


「ティムも同席させているし、何かあればすぐに知らせる」


 ジェラルドがそう言うなら任せよう。

「わかりました。ではお願いします」


「ゆっくりしていて。また後で」

 とジェラルドはカレンの額にキスを落とし会議へと戻った。


 カレンは客間へ戻りながら考える。

 それにしても、そうそうたる面々を前にもマイペースなアンジェリーナは、我が娘ながら相当肝が太い。


 …さて、私は何をしよう。


「あ、奥様、どちらに行かれたかと!」

 部屋の前にデボラがいる。


「ごめんなさい。アンジェリーナを迎えに行ったんだけど、フラれたの」

 と、冗談めかす。


「でしたら、この城砦をご案内したいのですが、いかがでしょう?」


 それは嬉しい。

「是非お願いします」


 ・


 この城砦は、見た目こそ砦だが、内装は貴族のそれに近い。


 応接室、居間、娯楽室に図書室…


「一通りの部屋はありますが、ランドールはもっぱら兵舎で過ごすことを好んでます。前男爵はそうではなかったらしいですが」


 それは恐らく、デズリーへの気遣いだろう。


「兵舎の方もご覧になりますか?」

「ええ是非」


「こちらが皆で食事をする食堂です…ご苦労様」

 デボラは使用人達に声を掛ける。


 広い食堂では、ディナーの準備の真っ最中だ。

 メイドや兵士達が忙しく働いており、和気あいあいと楽しそうだ。


「奥様はお好きな食べ物はありますか?」

 ふいにデボラが聞いてきた。


「好物は、リンゴとアイスクリームです。嫌いな食べ物はありません(栗は無理だけど)」

「そうなのですね!ではダフネ姉に伝えておきます!」


 デボラは案内しながら、あれこれと屈託なく話をしてくれ、カレンは楽しく時を過ごした。


 ・


「なんだか、皆家族って感じですね」


「そうね…」


 ディナーへの準備を整えながら、ニコルが話す。

 どうやら、南部の人達の気質はそもそもおおらかであるらしい。4姉妹の影響も大きいだろうが、中規模ゆえの近しさ、という感じもする。

 ともあれ、カレンは快く迎え入れてもらえたようで安心した。


「さ、出来ました」


 領主夫人らしく、というより、ジェラルドの妻らしくという考えが働く。あまり目立たず、馴染めるように…。


 扉がノックされ、ジェラルドが入ってきた。

 片腕に眠るアンジェリーナを抱えている。


「やっとランドールが離してくれた。今眠ると夜に目が覚めるかもしれないな…」

 やれやれ、という顔だ。


 ニコルにアンジェリーナを渡すと、改めてカレンに目を移した。


「ディナーの準備はできた?」

 と、カレンの腰を引き寄せて、顎をつまむ。


「これで変ではないですか?」

「とても美しいし、親しみもある。だが来た時もそうだったが…南部の者達の視線は遠慮が無い。私はそれだけが気掛かりだ」

 ジェラルドは眉を曇らせた。


 カレンはあまり気にならないが、どうやらジェラルドは違うらしい。


「ふふ。おおらかで遠慮が無い…スタンレイ男爵の自由さも納得できます。4姉妹の影響も大きいでしょうね」


「そうだな」


「そう言えば…彼女達は皆“D”で始まる名前ですね…もしかして、ダヴィネスの頭文字から?」


「ご名答。彼女らの父親は、元は私の父の腹心の部下で、若くして代を継いだランドールを育て上げたんだ」


 どうりで…姉妹には皆頭が上がらない訳だわ。


「さ、ディナーに行こう」

「はい」


 食堂のガヤガヤとした賑やかさは、扉の外まで聞こえる。


 ジェラルドとカレンが現れると、皆一斉に席から立ち上がったものの、いざ食事がはじまるとワイワイと砕けた雰囲気に戻り、カレンはホッとした。


 カレンはジェラルドの隣に座った。カレンの横にはデズリーが居て、何くれとなく世話を焼いてくれる。

 ジェラルドの隣にはランドールがおり、大好きなジェラルドを一人占めする勢いだ。

 フリードやアイザックは向かいに座る。


「お口に合いますか?」

 デズリーが遠慮がちにカレンに聞いてきた。


「ええ!とっても美味しいです」

 カレンは素直な感想を言った。

 肉厚な鱒のソテーが今夜のメインで、バターと香草で実に香ばしい。


「それは良かったです」

 美しい顔から文字通りの美しい笑みがこぼれる。


「この鱒は南部で獲れたものですよね?」

 これ程肉厚で味の濃い鱒は初めてだ。


「はい。今朝シテ河から水揚げされたものです。ダフネ姉が腕を奮いました」


「来る時に大きな河を見ました。漁をするのですか?」

「そうですね、漁をしたり…一本釣りもします」


 一本釣り…カレンは釣りをしたことがない。


 少し声を落として、デズリーの耳元に口を寄せた。

「釣りって、私にもできますか?」

 カレンの好奇心の強さが発動される。


 デズリーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに真っ白な美しい歯を見せて微笑む。

「もちろんです!明日にでもご手配しましょう。ピクニック日和です」


 やった!

「ありがとう。とっても楽しみです」

 カレンは満面の笑みで答えた。


 …ふと周りを見ると、ダヴィネス城の騎士達も南部の騎士達も、皆カレンに釘付けになっている。


 …少しはしゃぎ過ぎたかしら…?


 ゴホンッ!

 と、フリードが一際大きな咳払いをし、皆はハッと現実に戻され、食事を再開した。


「あなたの微笑みは罪深いと言うことだ」

 今度は耳元でジェラルドが呟く。“それみたことか”とその表情が語っている。


「そんな…!」


「ジェラルドだけじゃ飽き足ら無いみたいだね」

 ジェラルド越しに、ランドールが軽口をたたくが、以前のような刺々しさはない。


 久しぶりにランドールらしい皮肉な発言に、カレンは何やら懐かしさを感じる。


「ランドール」「ランディ」

 ジェラルドとデズリーが同時に諌めると、ランドールは舌を出した。


「でもさ、アンジェリーナは本当に可愛いよね。ずっと抱いてたいよ」

 これは本心からの言葉だろう。


「いい加減にしてください、ランドール。アンジェリーナ様はあなたのおもちゃじゃないですよ」

 フリードが文句を言う。


「わかってるよー。でもさ、ゆくゆくは彼女がジェラルドの後を継ぐかも知れないし…そうなると嬉しいよね」


 !


 カレンの手が止まる。と言うか、ギョッとする。

 思わずジェラルド越しにランドールを見てしまった。

 次いで隣のジェラルドの顔を見る。


 ジェラルドもカレンを見るが、互いになんとも読めない表情だ。


「あれ、僕なんか変なこと言っちゃったかな?」

 ランドールは悪びれもせずに言うが、意図していたのは明らかだ。

 やはり全く油断ならない。


 向かいに座るフリードやアイザックも微妙な顔だ。


 …なんて答えたらいいんだろう…

 カレンは考えるが、いい答えが思い付かない。


「そんなに私を殺したいのか?ランドール」


 言葉を発したのはジェラルドだった。

 怒ってはいない。むしろ面白がっているようにも聞こえる。


「そんなワケないけど…可能性の話ってやつだよ。なにさ、皆で真面目な顔しちゃってさ」

 と、幾分むくれている。


 カレンはハッとしてこの話が聞こえた範囲の騎士達の反応を見る。

 南部の騎士達は、ランドールのいつもの軽口と受け取り態度に変わりはないが、逆にダヴィネス城の騎士達の間には僅かだか緊張が走っている。


 カレンは、胸の中で盛大なため息を吐いた。

 跡継ぎ問題には皆敏感なのだ。


 以前ジェラルドから跡継ぎについての考えを聞いていなければ、カレンもアンジェリーナが生まれた時点で我が身を呪ったかも知れないが、今となってはさほど深刻に思うことはない。


 ただ、この後継者問題はたまに降ってわいたように出てくる。

 だが広大な辺境の地を治める領主の跡継ぎ問題ゆえ、それは仕方の無いことだった。


「!」

 机の下で、ジェラルドがカレンの手を握ってきた。


 隣のジェラルドを見ると、優しい瞳でカレンを見下ろしている。


 はい、私は大丈夫です。


 カレンは目線で答えると、ジェラルドは微笑んだ。


 カレンの目を見つめたまま、ランドールへと答える。

「お前の杞憂はまだ先の話だ。それよりも明日は剣技の腕を試すぞ」


 と、ランドールへ鋭い視線を投げる。

「覚悟しておけ」


 食堂の温度が確実に下がった瞬間だった。


 ・


 翌日は、ジェラルド達は(予告どおり!)早朝から鍛練場で剣の鍛練、続いて領地の見回りなので、カレンはアンジェリーナと共に釣りを楽しむことにした。



「…それにしても、ほんとにお噂に違わず、でしたわね、はいどうぞアンジェリーナ様」


 南部の城砦から馬で少し走った場所に、流れの緩やかになった良い釣り場があるとのことで、カレンと侍女のデボラ、ハーパーは騎乗し、アンジェリーナとニコル、ティムは馬車で移動した。


 南部はダヴィネス城の周りより秋の訪れが遅いと感じる。日中はまだ暑いくらいだ。


 釣りのやり方はデボラが教えてくれるとのことで、彼女は案内と護衛も兼ねていた。


 本当にスーパー4姉妹だわ…。


 カレンはデボラの乗馬の上手さにも感心したが、手早く釣り竿にエサを付けての手際の良さにも感心しきりだ。


「おしゃかなっ」

 アンジェリーナはデボラから手渡された子供用の小さな釣竿を、ティムに支えられながら持ち、やる気満々だ。


 デボラは聞かれもしないのに話を続ける。

「ジェラルド様の奥様への態度や目付き…全身で『カレン命』って感じで」


「ゴホン!」


 ハーパーがすかさずデボラの物言いに咳払いで文句をつけた。


 あ、失礼しました!と、デボラは頭を下げつつてへっと舌を出した。

 末っ子らしいちゃっかりさだ。


「ふふ、いいのよ」

 デボラの裏表のない気安さは、カレンには心地良く感じる。


「デズリー姉から聞いてはおりましたが…それでも、あの真面目一徹のジェラルド様がまさかって、ダイアン姉もダフネ姉も、もちろん私も実際に見るまでは信じていなかったのです…失礼ながら」

 と、チラリとハーパーの顔を伺う。

「はいどうぞ、奥様」

 釣り針の先にミミズを付けた竿をカレンに渡してくれた。


「なるべく河の真ん中辺りを狙ってみてください」


 カレンは言われた通りに竿を投げた。


「あ、お上手ですね。あとは、ひたすら待ちます」

 デボラはしゃがんだ。


 カレンも用意された小さな簡易椅子に座る。


「特に、ダイアン姉は驚きというより、感動してました」

 デボラは自らも竿を落とすと、思い出したように話はじめた。


「感動?」

 カレンは思わず聞き返した。


「ええ。ジェラルド様は、そもそもとても厳しい方です。もちろんお優しいことも重々承知ですが…愛する女性に対して、こんなにも違うものか、と。…奥様、お気づきですか?」

「?」

「ジェラルド様が奥様を呼ばれるお声」


 なんだろう、カレンはハテナ?と首を傾げる。


 デボラはニンマリする。

「『カレン』って…スッゴイ甘いです!」

 デボラはジェラルドの低い声音を真似た。


 ハーパーはすでに諦めたのか、こちらには見向きもしない。


 カレンは思わず赤面する。

 甘いも甘くないも、甘くないことの方が稀なので、カレンは答えようがない。


「あ、奥様引いてます!」

 デボラは突然釣りへと意識を移した。


「あ、え??」

 カレンは慌てる。


 デボラがほらほら!引いてください~とカレンの釣竿を一緒に引いてくれる。


 重い!


「こ、これは大物かも…」

 デボラが本気になる。くるくると変わる顔が本当に面白くて可愛らしい。


 カレンはデボラの言うがままに竿を引いたり緩めたり…。


「あ!」


 と、一際大きな鱒の横腹が飛沫とともにキラリと跳ねる。


「大きい!奥様!!そのまま引いてください!」

 と、網を準備する。


「カレン様、頑張ってくださいませ!」

 と、ニコルとハーパーも寄ってきた。


「母しゃま~!」と、アンジェリーナも母を応援する。


 かくして奮闘の末、超の付く大物をカレンは釣り上げた。

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