18. 北部へ・番外編・いつでも見守りアイザック
※「遭遇(下)」後半あたり、カレンがヴァン・ドレイクと会った前後です。
「…ウォルター、今の気配…」
「…はい…レディかと…」
「だよな。お前ジェラルドに報告しろ。俺は姫様の後を追う」
「了解です」
「あ、ウォルター待て」
「?」
「俺の弓矢、持ってこい」
「わかりました」
カレンが北部城塞の中庭で、ヴァン・ドレイクと相見える直前のこと。
カレンは潜み、アイザックやウォルターには気配は気取られていないと思っていたが、そうではなかった。
ダヴィネス軍の騎士たるもの、人の気配には決して無頓着ではいられない。
体に染みついた習慣は北部の強い酒にしたたかに酔ってはいても、健在だ。
しかも相手は訓練を積んだ間諜でなければ、戦場に身を置いた騎士や兵士でもなく…寝着のままでふわふわと歩くカレンだ。
息を殺して身を潜めはしても、カレンの気配はアイザックとウォルターにはバレバレだった。
アイザックは、カレンにはわからないように後をつける。
カレンの読めない行動力はよく知ってはいるが、ここはダヴィネス城ではなく北部だ。警戒は怠れない。
しかも今、ジェラルドはカシャ・タキ絡みでカレンと距離を置いている…。
アイザックはジェラルドの胸の内はわかりかねるが、珍しい状況なのはわかる。フリードならば、年上面でジェラルドから話を聞き出したりするに違いないだろう。
しかし、それはアイザックの役割ではない。
だがとにかく、夜中にたった一人で行動するカレンは要注意なのは確かだった。
中庭へと通じる扉から外へ出たカレンの様子をそっと探る。
雪の降る中、ボトルに入った透明の液体…恐らくアイザックも飲んだ北部城塞印のとびきり強い酒…を呷っている。
「ったく、ジェラルド早く来いよ…」自分にしか聞こえない呟きだ。
いくら酒に強くても、あの飲みっぷりでは足腰が立たなくなるのは目に見える。
「!」
アイザックは狼…恐らくカシャ・タキの飼う狼犬…に顔を舐められているカレン、そして次に現れた銀髪の男を見て、息を飲んだ。
…ヴァン・ドレイクか…!…ヤバいな…
と、ポンと後ろからジェラルドがアイザックの肩を叩くと傍らにしゃがみ、アイザックと同様に中庭の様子を探った。
「!……くそっ」
ジェラルドが小さく、さも憎々しげに呟いた。
カレンとヴァン・ドレイクがごく近い距離で会話する姿を認めると、ジェラルドからゾッとするほど凄まじい殺気が放たれる。
しばらく様子を見ていたが…
「カレンに触れるな!!」
ヴァン・ドレイクがカレンに手を伸ばした瞬間、遂にジェラルドが声を上げた。
「…」
アイザックは黙ったまま、背後のウォルターから渡された弓幹に矢をつがえた。
…ジェラルド、負けんなよ!!
心の中で叫びつつ、弓を引いたままで主と好敵手との対峙を見守った。